空の表紙 −天上のエクレシア−


「目を開けな。ノアール」


その声を合図に目を開くと、
そこは思いの他「普通」の部屋

薄暗い事を除いては、
部屋には幾つもの本や植物などが雑然と置かれていて
小さな診療所に近い



昼間の外には
大きな「★占い屋GARA★」と
看板が立て掛けてあり
ノブを回して普通に扉を開けて入ると

紫色の照明に黒い天蓋、
水晶やカードなど、
遥かにここよりおどろおどろしい


昔それを言ったら
「馬鹿だね。
ありゃ表商売の部屋なんだから
イメージが大切だろっ!
普段まであんな色の部屋で
暮らしてたかないよぅ
ひひひ!」と返された




−− 目が慣れて来ると

今は火の落されている暖炉の前に
巨躯がこちらに
背を向けて座っているのが確認出来た


膝下には重厚な大斧
手入れでもしていたのだろう
油の匂いが漂っている


ノアールが近寄ると
それがゆっくり振返り、片手を上げた

よく通る低い声が響く


「よう。」


笑ってはいないが
少し照れ臭そうな顔
ノアールしか知らない
その片目に負った深い疵の理由


「……ジーク…あんた…
生きてたのか…!!」


知らず涙が溢れる
子供の様に、それを腕でぐいぐいと拭う

ガラは暫く黙って
それを見つめていたが
黒いベールを前で合わせ
椅子に深く座り直すと
堅くしわがれた声で話し出した


「今日
あんたらを呼び出す手配をしてたのはね
よく聞いとくれよ

アレの存在に、
現王家が気付いて動いてるのは
知っての通りだが
動いているのは、あの切れ者の
フリート近衛隊長だ」



一瞬、ジークが動揺する

「フリートが何故…」


「え 近衛隊って、綺麗なだけの
お飾りなんじゃねえの?」



ジークが答える

「……いや
フリートは別だ

しかし何故こんな、きな臭い仕事を…」



< 31 / 227 >

この作品をシェア

pagetop