空の表紙 −天上のエクレシア−


イザベラによれば
使用人やここに来ていた、
ごく親しい人間に聞いた所
奴は城のパーティーに
余興として呼ばれた
旅芸人一座の一人として現れたらしい


あの容姿と歌声に
すっかり魅入られた女王が
御墨付きを彼に与え
その威光にあやかろうと
様々な貴族から引っ張りだこになった


が、
気紛れな彼は気に入った宴にしか
顔を出さない。
そして彼が訪れたパーティーは
大盛況を納める為話題になる

いつしか彼を呼べる事は
一流の貴族としてのステイタスとなった


だから今回
ここに彼が現れた時の
ピッキーノのご満悦ぶりは
測り知れない物だったらしい

『わたくしなら
得体の知れない者を
宴に呼んだりはしないのだが…』と
イザベラは続けたが
事が起こってしまってから
何を言っても後の祭りだ



聞けば
これまでに彼の出席した宴で
盗賊騒ぎの起こった事は一度も無いと言う


「けど今回は包みを盗んだ
今まで何もしなかったのに……

…探してた?
あの包みの中が何なのか知らないけど
ずっと探してたって事か…。…

ん〜…。

あの吟游詩人は
盗賊だったって事だよな…
ならそういう輩が居るところだろ……。

…そうだ!」



アクアスは
ひとけの少なくなったメイジ通りを駆け抜け
盛り場の方へと急ぎ足で向かった




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