空の表紙 −天上のエクレシア−
イザベラは急いで
服と服の奥に隠れる
(…? なんの音だ…?
何かが回転する軋む様な音
…こっそりそちらを見ようと
体を少しだけ乗り出す
東洋の『シノビ・キャンプ』の修業を
やっておいて正解だったと思った
−開いたのは奥の箪笥
その下から競り上がりに乗って
出て来たのは
(ピッキーノ?!
…なぜそんな所から…。
もしやお前も『シノビ・キャンプ』を?!
あれは中々にキツイのだが…
しかし彼女をもっと驚かせたのは
後に続く近衛隊長の存在だった
(憧れのフリート様まで何故…?!
もしや騎士からシノビへ?!
「…では陛下。
私は一度城へ参ります。」
「わかった!
では何かあったら即座に伝えたまえ!
…私も今日は疲れた…」
フリートは一瞬
奥の服の波の方へと目をやったが
すぐに戻し膝を折ると
恭しくピッキーノに
王にしか行わない所作で
騎士の一礼をし
箪笥の中に去った
ピッキーノは不機嫌そうに
箪笥に鍵をかけ
部屋の中央をあちこち見回しながら
うろうろ一周する
手には小さな箱を持って居た
「よし!あそこなら確実だ…!」
踏み台を持って昇り
天井に近い壁を押すと
壁に埋まった
小さな隠し引き戸が現れた。
箱細工の様な仕掛けがしてある
それをパタパタと開けると
何やら呟き、嬉しそうにしまい込んだ
部屋の灯を消して
上機嫌で部屋を出て行く
−暗闇には
イザベラだけが残される
…普段の彼女なら
明かりを消された途端に
叫び声を挙げていたろう
――だが今
彼女は笑っていた――。
「…ピッキーノが…国王陛下…?」