空の表紙 −天上のエクレシア−
元は学者の団員が
皆に代って声を出して読む
『辺境視察団の隊長が
雪崩の襲って来た下の村を救う為、
爆弾を持って麓に走り進路をずらした。
村は助かったが、
隊長は行方不明…と。
今時素晴らしい軍人さんが
いるもんだねえ…。」
へーと皆で声をあげる
横で離れて聞いていた彼が
いつになく熱心に学者に問い掛けた
「その隊長なんて名前?!」
年のせいで涙脆くなった学者は
眼鏡越しの目をシバシバさせながら
記事に目を寄せる
「ええと…、シエゲ。
いやジークかな。
ジーク・F・ルード中級三隊
上位から第四階級の
主天士の隊長さんらしい
…このまま行けば上級三隊も
夢じゃなかったろうになあ…」
鼻をかむ学者の後ろで
記事を飲み込む様な勢いで
見詰めていた彼
あの記事が彼を動かしたんだと
今なら解る
――――――― そして春。
大戦後初めて
一座はこの街にやって来た
かなり兵隊色が濃くはなっているし
あちこちに傷跡が残っている
でも賑わいは昔のままで
一座はしばらくの興行を
ここでやる事に決めた
テントを立て舞台も衣装もばっちりだ
そんな織り
いきなり宮殿での御前披露が決まった
新王の后クローバ様は
無類の演劇好きで
明日の祭りにも誰問わず
面白い出物を希望されていると
書かれた側近の手紙が届けられたのだ
他にも幾つか
旅芸人一座が出ると言うから
負けてはいられない
皆大慌てで話し合いを始めた時
いつもなら離れて見ている彼が
舞台の袖から現れた
−とても綺麗だった
「皆…十分。いや、
五分でいいです。
僕に舞台での時間を下さい。」
皆 断るわけが無かった
下を見続けていた彼が
やっと動き出したのだから