この世界は、真夏でできている。
第三章 水面で光って、揺らめいて
❁⃘

線香の匂いが、鼻を突き刺す。

おばあちゃんの墓参りに行った時も、今この目の前の墓の前でも

やっぱり何度でも、私はこの匂いが苦手だ。

墓の横に立てられた花は、この暑さで枯れてしまっているようだ。

勝手に変える訳にも行かないので、自分で買ってきた小さな花束を解き、

そこの仲間に入れる。

お墓に供える花は、どうして菊や(さかき)なんかの、静かな花なんだろう。

供える花を選ぶために訪れた花屋で、私はずっと考えていた。

「瑠夏」

振り返ると、そこに居たのは彩絵だった。

花筒の仲間の中に、また花が加わり、来た時よりもずっと賑やかになった。
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