この世界は、真夏でできている。
その後私たちはまゆちゃん先生と少しだけ昔の話や、

2年前に産まれたらしい先生の息子の話を聞き、同窓会の約束をして職員室を出た。

私たちは優介を案内し、校内もぐるっと一周した。

音楽室の古さもあの頃のままで、校舎の匂いも、

階段の踊り場にある大きな窓から流れ込む風の温かさも、何も変わっていなかった。

数年の時で、当たり前と言えば当たり前のことだが、それが嬉しくて懐かしくて堪らなかった。

いつのまにか、優介の記憶を戻すため、というより、また私たち自身が楽しんでしまっていた。

校庭の花壇のそばで、私たちはしっかり手入れされている花たちを眺めながら話した。

「思い出せなかった??」

彩絵が優介に声をかける。

「…なんにも」

「そっかぁ。こりゃ結構手強いね。」

「澪良さんごめん、せっかく手伝ってくれたのに、

全然…というか、まだ全く思い出せなくて」

彩絵は、なんだか不思議そうに優介を見つめた。

「…なに?」

「あっ、いや、ごめん。

なんか、ほんとに、別人なんだなって」

「でしょ、驚くよね。でも根本はやっぱり、変わってないんだなって思うところもいっぱいあるよ」

「また次、頑張ろ。」

少し話をして、駅まで優介を送ったあと、私と彩絵は2人で並んで帰った。
< 111 / 231 >

この作品をシェア

pagetop