この世界は、真夏でできている。
「その小説、そんなに面白いの?」

一瞬にして緊張感が解け、一気に暖かい空気が戻ってくる。

彼女はそう言いながら僕の前の椅子に腰かけ、メニューも見ないまま店員さんを呼び出した。

「アイスカフェラテお願いしまーす」

安心感に包まれ、先程まで頭の中いっぱいに埋め尽くされた

小説のその1ページの事は、もうどうでも良くなっていた。

僕はパタンと小説を閉じる。

彼女と待ち合わせする時、カフェラテ以外を頼んでいるのを見たことがない。

「夏休みもうすぐ終わっちゃうよー」

彼女の夏休みが終盤に差し掛かっている、ということは、

つまりこの“メモリーズの旅”も終わりが近づいているというわけだ。

1ヶ月とは思えないほど濃くて、落ちていく花びらのように一瞬に過ぎ去って行った。

どの日も、彼女の姿や表情まで鮮明に記憶に残っている。
< 124 / 231 >

この作品をシェア

pagetop