この世界は、真夏でできている。
大きな音と、水飛沫(みずしぶき)

橙色に染っていたはずの美しい世界は、いつのまにか暗闇に近くなっていた。

空へ夢中だった僕の視線が、一気に彼の方へ寄せられる。

一瞬の出来事だった。

波が、彼を、攫った。

「優介____」

自分がカナヅチなこともすっかり忘れ、必死で波を掻き分けた。

何も、考えてなかった。


ここ最近ずっと、1つしか、“死にたくない”としか思ってなかった僕が、


初めて、別の欲望を抱いた。



「死ぬな、優介」
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