この世界は、真夏でできている。
彼女は溜まっていた涙を零し、何も言うことが出来ない、といった様子で、

右手に下駄を持ち、僕に掴まれた左腕を振り払い、この海を後に走ってしまった。

そんな彼女に、僕は声をかけることすら出来ず、


振り返って橙色に染まった海を見た。

上の方が真っ青で下の方が橙色に染まったこの景色は、どこかで見たような気がした。


彼が今この場に現れたら、僕は、なんて声をかけていたんだろうか。

遠くで、花火の打ち上がる音が、大きく響いた。
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