この世界は、真夏でできている。
❁⃘

まだ夕方前であるこの道は、あまりにも太陽が強くて

私なんか簡単に影に追いやられてしまうようだった。

波の音が、心地よかった。

黒羽のバイト先であるカフェから歩くこの道は、空気が、匂いが、音が

汚い私をいつも癒してくれるようで、本当に好きだ。

…彼女が私に言った、「辛い思いをしない選択」とは、

過ぎ去ってしまったら、何も出来なくなってしまう、という事だろう。

彼女は3年前、初恋の人を失い、

伝えたくても二度と伝えることの出来ない存在となってしまった。

私はそれを、誰よりも知っている。


「瑠夏と、東希が両思いなの、知ってた」


そう、知っていた。

東希の訃報を聞いた時、藍原瑠夏がこの世から消えた。

私は、初めてそこで気づいた。

彼らは、両想いだった。


あの日、本当は気づいていたんだ。というか、きっと私だけじゃない。

< 191 / 231 >

この作品をシェア

pagetop