この世界は、真夏でできている。
目の前が白い花びらに覆われた、

蒼い光でいっぱいになったのだ。

僕は言葉を発することさえ出来なかった。

目の前の光が、ゆらゆら揺れているようだった。

空から降りてくる雪はゆっくり彼女とその景色を染め、

僕の顔は、きっと、寒さのせいで真っ赤になっていることだろう。

そう、これは寒さのせいで。

「うわっ」

いくよっ、と彼女がまた僕の腕を掴み、

踵を返して歩き出した。

どうやら、見惚れている暇なんてないようだ。
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