この世界は、真夏でできている。
「優介!」彼に追いついて、再び名前を呼ぶと彼は振り返り、「またあんたか…」と露骨に嫌そうな顔をする。

「メイクして可愛くなったから気づかなかったと思うけど、私!!藍原瑠夏だよ!」

私は自信満々に、“私”を全面的に押し出した。

しかし、彼から発された言葉は、とても予想なんてつけようのないものだった。

「いや、本当に知らないし。つか別にブスだし」

「ブッ……!?」

私が続いて怒りの言葉をぶつける前に、彼があー…、と口を開いた。

「俺…中3の頃、事故で…記憶ぶっ飛んでるんだよね。」

えっ??

そんなこと、誰が予想出来ただろうか。

まさか、そんな。

それなら、彼が人が変わってしまったようでも納得がつく。

彼は、私が何か言い始める前にごめん、とだけ言い、この場を離れた。
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