この世界は、真夏でできている。
川が近づいてくると、やっぱり特別綺麗とは言いがたかったが、

こんなに五月蝿い蝉の声とは裏腹に、穏やかすぎるほど穏やかなその流れに、

私は惹かれていくように堤防を降りた。

近くで見たら、ちゃんと川は透き通って、太陽の光を反射しキラキラ光っていた。

アイスを持ってない右手を、少しだけ、川に漬けた。

思っていたよりもずっとひんやりしていて、思わず冷たっ、と声を漏らした。

1人で自然に触れて、なんだか感傷に浸った気分になったところで、「あぁー。」と声を上げる。

(進路…どうしようかなー…)

(優介は…どうするんだろう…)

彼はいつからこっちに戻ってきていたのか。

あの時、高3の頃帰ってくると言っていたから、

てっきり卒業してから戻ってくるんだとばかり思っていた。

今はこっちの高校に通っているのだろうか。

あ、アメリカでは学校早く終わるのかな。

元々地頭が良かったからいい大学入るんだろうなぁ…。

あまりにも、会話することさえままならなかった夢のような現実に、唖然としていた。

せっかくの奇跡のような遭遇だったのに。

彼は昔から、私とは、全然違う。

左手に、溶けたアイスがかかってきたのも気にならない。

(今日せっかく会えたのに、もっと話せばよかった。

まぁ、もう会うことなんて。)

シャリッ、といい音を立てて、私は帰路へ向かうことにした。
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