この世界は、真夏でできている。
眠気でぼーっとする頭には、先生の話なんか一切入ってこなくて、

私はその空っぽの頭と重い瞼のまま、

窓の外から遠い大きな雲を眺めた。


窓際の席は、眩しくなるような日差しを犠牲に、

夏の風が自分を仰ぐのでとても居心地がいい。

暑苦しくて汗も蝉の声も嫌いだが、私は夏が好きだ。

なんとなく冬より時間がゆったりに感じるし、
何せ明日から夏休みに入るものだから。

これまで幾度となくしてきた後悔を繰り返さないために、

私は事前にほとんどの荷物を持って帰っていたため、

とても軽々したリュックを背負った。

そんな私に比べ、黒羽はとてもしんどそうな顔をしている。

それから両手にでっかい手提げを掲げ、ドアの方へ向かった。

バレたら停学だが、彼は今日駅近くの駐車場に停めている原付で帰ると先程言っていた。

私も続いて教室を出ようとしたところで、私のスマホが音を鳴らした。

画面には伊勢 流星(いせ りゅうせい)と、

本当にこの3年間、よく見た名前が表示されている。

「もしもし?」
わかりやすく、だるげな声で応答する。

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