この世界は、真夏でできている。
「それにしても、なんだよ“メモリーズの旅”って。」

夏休み1日目、さっそく今日の目的地に向かう途中で、僕は口を開いた。

「いいでしょ?」

「いや、ダサい」
「ドハッキリ」

彼女のセンスにはいまいち理解ができない。

どうせその場の思いつきであるだろうし。

彼女に案内されるがまま着いたのは、映画館だった。

「映画館?」

「そうそう、慣れない電車に子供たちだけで乗って、

降りるとこ間違えたりして、あの頃の私たちからしたらトラブルだらけだったんだよねー」

ズラっと今上映中の映画の名前が並べられている。

どれも惹かれるものもないし、題名だけ見ても、

テレビで流れてくる広告でほんの一瞬目にしたことがある物程度しか分からなかった。

「じゃあ〜これ!」と、瑠夏は1つの映画を指さした。

「『青い春を呼んで』……?」

「泣けるって有名なんだ〜これずっと見たくてーおねがいっっ!」

「はー?なんだよこれ、ぜってー嫌だ。鬼つまんなそうだし」

「じゃああんたは何がみたいのよ!!」と瑠夏は声を荒らげる。

一覧をもう一度一通り眺めるが、やはり惹かれるものはこれ一つとしてない。

あっ。と1つ僕は指を指した。

「これかな」

「げっ、絶対やだ!!それホラー映画だよ、知らないの?観た人も呪われるって言われてるんだよ〜」

そう言って彼女は手をお化けの形にして下から覗き込んでくる。

「ばかか?」

彼女は不貞腐れた顔をした。

「ようしわかった、正々堂々ここはじゃんけんしよう!」
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