この世界は、真夏でできている。
そのままマンションの前から出て彼女に連れられた場所は、

曲がり角にこじんまりと佇んでいる雰囲気のある駄菓子屋だった。

…ただ今はもう、潰れてしまっているようだ。

彼女はまた先ほどの、切ない顔を見せた。

この顔は、いつかも見たような気がする。

「…ここはね、毎日毎日、ほんとに毎日通ってたの。

学校が終わって放課後ランドセルを置いてきたら、
まずここに集合して

なけなしのお小遣いでちっちゃいお菓子を数個買って」

彼女は話しながら、ゆっくり廃駄菓子屋の中へ入っていく。

中には、色褪せ禿げたポップアップや、

地面にはけんけんぱの輪っかが書かれていたり、

アイスやラムネが売られていたであろう冷凍庫が

記憶のない僕にも懐かしさを感じさせた。
< 74 / 231 >

この作品をシェア

pagetop