この世界は、真夏でできている。
「そ、う」

記憶が戻ったわけじゃない。

そのおばあさんについては、何ひとつとして知らない。

ただその時の僕が感じた寂しさみたいなのは、

未だに忘れられていないように感じる。

心の奥がつん、と針で刺されたような感覚に襲われた。

「お墓参りに行こう。そのおばあさんの。」

我ながら、あまりにも突拍子のない発言だと思う。

彼女は小さく口を開けてぽかん、としていた。
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