この世界は、真夏でできている。
彼女に案内されたまま辿り着いたそのおばあちゃんのお墓は、

綺麗に手入れされ、供えられた花も比較的最近であろうことが伺えた。

僕らも先程駅を降りてすぐの所にあった花屋で購入した小さな白百合を供え、

線香を借り手を合わせる。

再び目を開けるまで、僕は蝉の声も、暑さも忘れてしまっていた。

記憶を取り戻したい、と強く思った。

どうか1目でいいから、そのおばあちゃんに会ってみたかった。

だけどもう、今の僕が会うのは不可能だったから。
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