この世界は、真夏でできている。
時刻は夕方頃になっていたが、夏のせいか外はまだまだ明るかった。

「せっかくここまで来たし、どうせなら暗くなる前に散歩しよ。」

そう言って次の電車が来る前に少しだけ、散歩することになった。

僕らが今住む街も都会とは言い難いが、それでも僕らの住む街とは全く違っていた。

次の電車まであと1時間という猶予があり、見渡せば深い緑の山と、

小さな魚が優雅に泳ぐのを見ることの出来る透き通った川。

向こうよりもずっと広い真っ青な空が、まだまだ視界いっぱいに見えた。

「ねぇ、この近くに海があるから行ってみようよ」と彼女が提案した。

「ごめん。
俺、海苦手なんだよね」

記憶を無くしてから、好きだったものも、苦手だったものも他には何も覚えてないのに、

ずっと目が覚めた時から海だけはどうしても苦手だった。

おそらく僕は、海で事故にあって記憶をなくしたからだろう。

「えっ、そうなんだ、そりゃ残念だあ」
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