この世界は、真夏でできている。
まだ完全に日が落ちた訳では無いが、外に出れば先程よりもさらに暗くなっている。

「最後に観覧車乗って、帰ろ」

「いいよ」

彼女は相変わらず、この狭い空間でもはしゃいでいる。

そんな彼女を、僕はどんな表情で見つめていたのか。

「楽しかった?」と聞いてきた。

ひねくれた返答をしようかとも考えたが、僕は素直に「楽しかった」と答えた。

彼女はわっ、と笑い、私も、と言う。

夕日があって助かった。

僕の認めたくない、この気持ちを、もしかしたら察されてしまうかもしれなかった。

ー僕は、彼女に惚れてしまった。

あの小説の一文が、この2人だけの空間で、

何度も何度も頭の中を駆け巡る。

消しては流れ、また消す。

彼女の横顔を見て、僕は拭えきれないものだと悟った。


僕は、彼女に惚れてしまった。
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