この世界は、真夏でできている。
「なにも、思い出さなかった?」

僕のそんな浮ついた気持ちとは裏腹に、彼女の顔は少し曇ったような気がした。

外がいよいよ暗くなったからだと信じたかった。

「…うん、ごめん」

「いいよ、優介は悪くない」

知りたい。彼女と以前、どんな思い出があったのか。

どんな会話をしたのか。

本来なら、彼女との思い出や記憶は底知れぬほどあるはずなのに、

僕の中にはまだ雀の涙ほどにしかないのが悔しい。


「優介ってさ、やりたいこととかある?」

「特に、ない、かな」

「そっかあ。けど、どうするつもりなの?」

「周りに勧められるまま、都内の大学を受験するつもり。

向こうでもう高校は卒業したから」

「そうなんだ。あっ、でも、中3で記憶失くしたって言ってたけど、

授業とかわかったの?」

「うん、別に。基礎的なことは別に忘れてなかったから、

ちょっとコツ掴めば、すぐわかった」

「あったまいいんだ、相変わらず。ずっる」
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