この世界は、真夏でできている。
彼女に言われるまで、何したいとか、将来とか、

そういえばまともに考えたこともなかった。

記憶を無くして以来、著しく興味がそそられることも、

感性も乏しくなったように思う。

「そういうお前は?何かしたいこととかあるの?」

「ないんだよね、何も」

彼女からは意外な言葉が返ってきた。

彼女は、夢にも、したいことにも溢れかえってそうに思っていた。

けどすぐに、彼女の経緯(いきさつ)を思えば、

あの日から希望を捨ててしまったのかもしれない、と納得が着く。

「一緒に見つけよ」

彼女の目が、観覧車の窓から映る月のように、まんまるに光った。

考えるよりも出てしまった言葉に、自分自身でも驚く。

彼女は暗いこの箱の中でも鮮明に分かるほど、頬を暖かく染めてうん、と笑った。
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