この世界は、真夏でできている。
その晩、彼女にバイトが決まった節を伝えると、

少し不安げではあったものの、「初めてのバイト、頑張ってね」と応援してくれた。

今まで全く人の元で働くなんて経験がなどなく未知数だったため、

次の日は駅中のビルにあるチェーン店のカフェで、

なんとなく店員さんの動きを見ながらいつもの本の続きを読むことにした。

来た時間が平日の夕方前なのもあってか、あまり込み入ってはいないようだ。

カラン、とドアベルが鳴ればすぐさま店員さんが誰か1人駆け寄り、

テーブルに案内する。また別のテーブルで呼ばれれば注文を受けに行き、

水が少なくなったと気づけばこまめに注ぐ。

カウンターから出された料理をテーブルまで運んでいるが、

トレンチには多くの料理を乗せて上手くバランスを取るのが難しそうだ。

ざっと見ただけでもやることは多そうだ。

しかし、これぐらいならまだ何とかやって行けるだろう。

僕は頼んだアイスコーヒーを1口飲み、目線を手元の本に移した。
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