寵愛のいる旦那との結婚がようやく終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい
十七
 もうすぐ亜人隊のみんなが来る時間だ。わたしは昨日のことがあるから緊張をしていた。二時前に前になり"カランコロン"とドアベルが鳴る、みんなが店に来たんだとわかり、ひゅっと小さく喉がなった。

 落ち着けわたし、深呼吸をしてみんなを出迎えた。

「こんにちは、お疲れさまです」

「よっ、腹減った」

「シッシシ、美味いのを頼む」

「お肉、お肉!」
「お肉、お肉!」

「こんにちはミリアさんにリーヤさん。お二人は今日もお綺麗ですね」

 みんなはいつもの調子で特に変わった様子はない。

(アレが、わたしだって気付いていないんだ、変に緊張しちゃった)

「いらっしゃい、英雄さんたちは何食べるんだい?」

「ミリア、英雄だなんて言うな。ただワーウルフを討伐しただけだ、肉を焼いてくれ」

「私もお肉を焼いてください」

 アヤトとロカはお肉を頼み、カヤとリヤはカウンターの近くでクンクンと小さな鼻を動かした。

「この匂いはハンバーグかな?」
「そうだ、ハンバーグの匂いだ」

 リヤとカヤはハンバーグの匂いが気になったみたい。

「リーヤ、カヤとリヤにハンバーグを焼いてやって」

「わかりました」

 ミリアに頼まれてわたしはカヤとリヤにハンバーグを焼き始めた。いつものようにドカッとカウンターに座ったナサ。

「リーヤ、ハンバーグが残ってたらオレにも焼いてくれ」

「ナサも? わかった、ちょっと待っててね」

「焦がすなよ」
「もう、焦がさないわよ!」

 ナサといつものやりとりをして、調理に取り掛かった。一つのフライパンで目玉焼きを焼き、もう一つでハンバーグを焼く。

 ハンバーグに焼き色を付けてから、フライパンに水を加えて蓋をして蒸し焼きに。その間にプレートを出してご飯とポテトサラダを盛って、フライパンの蓋を開けた。

「よし、ハンバーグがふっくらに焼けたわ」

 竹串をさして肉汁の色を確認。中まで火が通ったらハンバーグをプレートに乗せて、上からトマトソースかけ半熟目玉焼きを乗せる。温めたコーンスープをカップによそったらワンプレートの出来上がり。

「ナサ、カヤ君、リヤ君、ハンバーグできたよ!」

 カウンターに三人前のワンプレートを乗せた。ナサとカヤ、リヤはワンプレートを覗き込んで微笑んだ。


「シッシシ、これは美味そうだ」

「美味しそう、いただきまーす!」
「ハンバーグ、ハンバーグ! いただきまーす!」

 カウンターに並んで座り、みんなは一口食べて美味しいと言ってくれた。

 今日の気まぐれは大成功だわ。

「リーヤ、終わった? こっちも手伝って!」
「はーい、ミリアさん何をすればいいですか?」

 ミリアに呼ばれて厨房に行く途中、みんなは何かを感じたのか、いっせいに店の入り口を見た。

 カランコロン。閉店したミリア亭、誰も来るはずのない時間にドアベルが鳴る。そこに全身を覆う様に黒いローブを頭からすっぽり羽織り、腰に剣をさす男が立っていた。

 ナサはその男に何かを感じたのか"グルルルッ"と低く喉を鳴らし威嚇した。それを合図にみんなは一気に臨戦態勢にはいる。しかし、この男はまったく気にしないのか、"ズカズカ"店の中に入りカウンター近くまで来た。

 みんなに緊張が走り、鋭く男を睨んでいる。

 男はローブを深く被り顔が見えない、かろうじて見えた口元はこうを描き、こう言った。

「リイーヤ、やっと見つけた!」

 と、わたしの実名を呼んだのだ。
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