寵愛のいる旦那との結婚がようやく終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい
二十七
わたしはパン屋で目当てのパンを買えて上機嫌。浮き足立ちながら北区を目指すのだけど、あのまま後ろから着いて来る、リモーネに振り向き足を止めた。
「リモーネ君、騎士団の仕事に戻ったらどうですか?」
「いや、リイーヤ嬢を安全に北区まで、送って行くと言った」
(……もう、このやり取り何回めだよ)
「それと、いま、わたしは公爵令嬢ではないので、嬢はいりません」
「わかった、リイーヤ」
只でさえ騎士団の鎧が目立つのに、その彼が後ろを歩いたり、並んで歩いているから、みんなが何事かと振り向く。
(これじゃ、わたしが何かやらかしたみたいじゃない)
だけど、何を言っても彼は帰ってくれない、ミリア亭には二時前にアサト達も来るのに、送ってもらったらすぐ帰ってもらおう。
「……リイーヤ」
「な、なに、巡回に戻るの?」
「いや、違う」
違う、の後に続く彼の言葉はない。元々、リモーネはお喋りは方ではないを知っている。言葉を慎重に選んでいるのか、何かわたしに聞きたそうな感じがした。
彼が聞くと言ったらワーウルフのことかな? それとも、離縁のこと? どちらも、わたしとしてはあまり聞かれたくない話しだ。
わたしの隣を歩くリモーネは、相変わらず何も言わない……彼は卒業式の後でもそうだった。式が終わり帰り支度の時、彼に『リイーヤに決闘を申し込む』と、嵌めていた左手袋を投げつけられた。
『決闘するのね』
『ああ、訓練場で待つ』
決闘をするために訓練着に着替えて訓練場に行くと、彼は腰に剣をさして真ん中でわたしを待っていた。
『リイーヤ、よく来たな。ここでの決闘も今日で最後だな』
『そうだけど、今度は騎士団養成所で一緒に戦えるのに、卒業式の日にまで決闘するの?』
さっき手袋を投げつけられて、彼からの決闘を受けたから決闘はするのだけど……これからも騎士団でするだろうに。しかし、その日のリモーネからは凄い気迫が感じられた。
『……学園を卒業したら、僕はリイーヤに会えなくなる』
『え、?』
何故? と聞いたけど。リモーネはこの勝負に勝ったら教えると言った。けっきょくわたしは勝負に負けて訳を聞けなかった。最後と言ったのは……卒業の後に故郷ガレーン国に戻るからだったんだ。
だから王女のデビュタントの日に舞踏会が苦手で、いないのではなく、彼は国に戻っていてリルガルドにいなかったからなんだ。
昔を思い出し、当時とは違う道を進む、わたし達。
「フフ、リモーネ君とこうやって並んて歩くのも、卒業式の決闘以来だね。あれから二年以上経つし、ますます強くなったんじゃない?」
「当たり前だ。いまは新米騎士を教える側になったが、訓練は欠かさずやっている。……リイーヤは会わないうちに女性らしくなったな」
(え、女性らしく⁉︎)
「リ、リモーネ君、きゅ、急になにを言うのよ……でも、ありがとう」
「リイーヤ、照れなくていい。本当のことだ」
そう言って笑った笑顔が昔と同じだった。リモーネの鎧越しからわかる盛り上がる筋肉。彼は努力家だから、毎日コツコツ訓練をやってきただろう。
「ところで、リーヤは北区の何処に向かっている」
「ミリア亭という定食屋だよ。そこで雇ってもらって、いま働いているの」
「そうか……」
その後、リモーネ君は再び口を閉ざして何か考えてるみたい。そうこうして、歩いているうちにミリア亭の前に着く。
「リモーネ君、ここがわたしの働いてる定食屋だよ」
休みの日は裏口に回らず、表入口から扉を開けてはいる、カランコロンとドアベルが鳴る。厨房で仕込みをしているミリアに挨拶した。
「こんにちはミリアさん……と、え、ナ、ナサ⁉︎」
カウンター席に座る大きな背中、驚くわたしにナサは振り向き、呑気に手を上げた。
「よっ、リーヤ」
いまは訓練が終わって休憩か、お昼寝する時間だって、この前に教えてくれたのに。
「ナサ、なにのんびり、ミリアさんの特製コーヒー飲んでいるの?」
驚きで、思わず大きな声わあげてしまった。
それにナサは笑い。
「シッシシ、別にいいだろ。ミリアのコーヒーが飲みたくなったんだ」
「もう、そんなこと言っていないで。ちゃんと体を休めないと疲れが取れないよ」
強めに言っても"へいへい"と軽い返事を返すだけで、まったく聞く耳を持たないナサに近付いた。
「ナサ!」
「別にいいだろう」
と、二人で言い合いをしていた。
その後ろで、カランコロンとドアベルが鳴り。
「リイーヤ、表にcloseの札が掛かっていたが、入ってもいいのか?」
リモーネが扉から顔を出す。
「いいよ、いまからお手伝いをするから」
「手伝い? ……そうか」
表に"close"の札が掛かっていたからか、店に入るのを躊躇していた、リモーネは中を確認しながら入って来る、そのリモーネの姿を見たナサは目を丸くした。
「えっ、なっ、なんで騎士団、三番隊のリモーネ隊長がここに来るんだ? リーヤ、お前、中央区に行ってなにかやったのかぁ?」
いきなりナサが立ち上がったせいで、カウンターのコーヒーカップがガチャンと音を立てた。
「リモーネ君、騎士団の仕事に戻ったらどうですか?」
「いや、リイーヤ嬢を安全に北区まで、送って行くと言った」
(……もう、このやり取り何回めだよ)
「それと、いま、わたしは公爵令嬢ではないので、嬢はいりません」
「わかった、リイーヤ」
只でさえ騎士団の鎧が目立つのに、その彼が後ろを歩いたり、並んで歩いているから、みんなが何事かと振り向く。
(これじゃ、わたしが何かやらかしたみたいじゃない)
だけど、何を言っても彼は帰ってくれない、ミリア亭には二時前にアサト達も来るのに、送ってもらったらすぐ帰ってもらおう。
「……リイーヤ」
「な、なに、巡回に戻るの?」
「いや、違う」
違う、の後に続く彼の言葉はない。元々、リモーネはお喋りは方ではないを知っている。言葉を慎重に選んでいるのか、何かわたしに聞きたそうな感じがした。
彼が聞くと言ったらワーウルフのことかな? それとも、離縁のこと? どちらも、わたしとしてはあまり聞かれたくない話しだ。
わたしの隣を歩くリモーネは、相変わらず何も言わない……彼は卒業式の後でもそうだった。式が終わり帰り支度の時、彼に『リイーヤに決闘を申し込む』と、嵌めていた左手袋を投げつけられた。
『決闘するのね』
『ああ、訓練場で待つ』
決闘をするために訓練着に着替えて訓練場に行くと、彼は腰に剣をさして真ん中でわたしを待っていた。
『リイーヤ、よく来たな。ここでの決闘も今日で最後だな』
『そうだけど、今度は騎士団養成所で一緒に戦えるのに、卒業式の日にまで決闘するの?』
さっき手袋を投げつけられて、彼からの決闘を受けたから決闘はするのだけど……これからも騎士団でするだろうに。しかし、その日のリモーネからは凄い気迫が感じられた。
『……学園を卒業したら、僕はリイーヤに会えなくなる』
『え、?』
何故? と聞いたけど。リモーネはこの勝負に勝ったら教えると言った。けっきょくわたしは勝負に負けて訳を聞けなかった。最後と言ったのは……卒業の後に故郷ガレーン国に戻るからだったんだ。
だから王女のデビュタントの日に舞踏会が苦手で、いないのではなく、彼は国に戻っていてリルガルドにいなかったからなんだ。
昔を思い出し、当時とは違う道を進む、わたし達。
「フフ、リモーネ君とこうやって並んて歩くのも、卒業式の決闘以来だね。あれから二年以上経つし、ますます強くなったんじゃない?」
「当たり前だ。いまは新米騎士を教える側になったが、訓練は欠かさずやっている。……リイーヤは会わないうちに女性らしくなったな」
(え、女性らしく⁉︎)
「リ、リモーネ君、きゅ、急になにを言うのよ……でも、ありがとう」
「リイーヤ、照れなくていい。本当のことだ」
そう言って笑った笑顔が昔と同じだった。リモーネの鎧越しからわかる盛り上がる筋肉。彼は努力家だから、毎日コツコツ訓練をやってきただろう。
「ところで、リーヤは北区の何処に向かっている」
「ミリア亭という定食屋だよ。そこで雇ってもらって、いま働いているの」
「そうか……」
その後、リモーネ君は再び口を閉ざして何か考えてるみたい。そうこうして、歩いているうちにミリア亭の前に着く。
「リモーネ君、ここがわたしの働いてる定食屋だよ」
休みの日は裏口に回らず、表入口から扉を開けてはいる、カランコロンとドアベルが鳴る。厨房で仕込みをしているミリアに挨拶した。
「こんにちはミリアさん……と、え、ナ、ナサ⁉︎」
カウンター席に座る大きな背中、驚くわたしにナサは振り向き、呑気に手を上げた。
「よっ、リーヤ」
いまは訓練が終わって休憩か、お昼寝する時間だって、この前に教えてくれたのに。
「ナサ、なにのんびり、ミリアさんの特製コーヒー飲んでいるの?」
驚きで、思わず大きな声わあげてしまった。
それにナサは笑い。
「シッシシ、別にいいだろ。ミリアのコーヒーが飲みたくなったんだ」
「もう、そんなこと言っていないで。ちゃんと体を休めないと疲れが取れないよ」
強めに言っても"へいへい"と軽い返事を返すだけで、まったく聞く耳を持たないナサに近付いた。
「ナサ!」
「別にいいだろう」
と、二人で言い合いをしていた。
その後ろで、カランコロンとドアベルが鳴り。
「リイーヤ、表にcloseの札が掛かっていたが、入ってもいいのか?」
リモーネが扉から顔を出す。
「いいよ、いまからお手伝いをするから」
「手伝い? ……そうか」
表に"close"の札が掛かっていたからか、店に入るのを躊躇していた、リモーネは中を確認しながら入って来る、そのリモーネの姿を見たナサは目を丸くした。
「えっ、なっ、なんで騎士団、三番隊のリモーネ隊長がここに来るんだ? リーヤ、お前、中央区に行ってなにかやったのかぁ?」
いきなりナサが立ち上がったせいで、カウンターのコーヒーカップがガチャンと音を立てた。