寵愛のいる旦那との結婚がようやく終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい
三十五
「ほんと、アイツと仲が良さそうだな。彼はトラの獣人か……フウッ、俺よりも色々とデカイな」

 カートラお兄様の瞳がキラキラしてる、ナサと戦いたいのね。

「お兄様ダメよ、彼との戦いは国が許可しないわ」

「そうだろうな。実際にあの獣人、ナサと戦うにしても、かなり手加減をされるだろう」

(騎士団長のお兄様がナサを見てそう言うなんて、ナサは相当強いのね)

 小さくなっていくナサの横を、この国とは違う鎧を身につけて長めのオレンジ髪を揺らして、こちらへと走って来る副団長で伯爵のランドル・ベラルコス様の姿が見えた。

「こんな所にいたのか、カートラ。騎士団の宿舎にもいないから探したぞ、勝手に動き回るな」

「悪い、ランドル。ガレーン王族との話し合いは終わったのか?」

「ああ、終わった。日時も決まったよ、いまから三ヶ月後のガレーン国王祭の日に」

「ガレーン国王歳の日か、わかった。明日、リルガルドに戻って国王陛下に伝えないとな」

 三ヶ月後の国王祭? 何の話をしているのかわからないけど。二人を見てるとランドル様はカートラお兄様の横にいる、わたしに視線を送った。

「ところで、この綺麗なお嬢さんは誰?」

 その問いにお兄様はニヤッと笑い、わたしの腰を引き寄せた。

「あ、」
「この綺麗な子は俺の彼女だ、どうだ可愛いだろう?」

(まあ、お兄様ったらランドル様に意地悪をしているわ)

「お前に彼女? 私でさえ、まだいないのにって、……あれっ?」

 わたしの顔を間近くで見て首を傾げた。何処となく、カートラお兄様に似ていたのだろうか、ランドルは考える素振りを見せる。

「フフ、お忘れですかランドル様? カートラお兄様の妹のリイーヤです」

「ええ、カートラの妹? もしかして、リイーヤちゃん?」

「はい、リイーヤです」



 ランドル様の驚いた声が北口の門に響く、かなり驚いた様子。

「カートラ、お前はリイーヤちゃんがこの国にいる事を事前に知っていたな。ガレーン国に行くと言って聞かなかったのもリイーヤちゃんに会うためか?」

「ああ、そうだ。それと、この国の騎士団にも興味あったし、何より、ワーウルフの話だ」

 まだ、リルガルド国ではワーウルフが噂になっている。

 お兄様はわたしに。

「リイーヤは知らないか、強制に召喚されたワーウルフトと冒険者が戦った話を」

 え、カートラお兄様は知らないの? アトールはこの国にわたしがいるとは伝えたけど、ワーウルフの事まではお兄様に伝えていないのね。

(知ったら、飛んできてしまうものね)

「えーっと、その話は……北門の近くにワーウルフが二体出たとは聞きましたけど、戦った冒険者と女性がどんな人までかは知りません」

「ん、女性? ワーウルフが二体? フムフム……そうか、ワーウルフと戦ったのはリイーヤ、お前だな。俺は戦った冒険者とは言ったが、女性の事は言っていない。それに、ワーウルフは二体もいたのか」

「あ、ああ……」

 しまった誤魔化そうとばかり考えて、自ら墓穴を掘ってしまった……お兄様とランドル様の瞳が痛い、これは二人に全部話すしかない。

「そうです、ワーウルフと闘ったのはこの国の冒険者ーーいいえ、騎士団の騎士と私です」

「騎士団の騎士か、こちらに伝わってきた話とは少し違うな。で、どうだった? ワーウルフ二体はデカかったか? 戦った感想は? 強さはとうだ、相当強かったのか?」

「私もワーウルフの強さは知りたいですね、魔法は効きましたか?」

 話に食いついた、剣士のお兄様と魔法使いのランドル様の、瞳が生き生きとしている。

「ワーウルフは二体いたのですが、片方は雄で体はニメートル以上で突進や引き裂き攻撃をしました。もう片方は雌で、雄よりも一回り小さく口から衝撃弾、突進攻撃をしました。魔法は……騎士団の魔法使いの方は訓練後だったようで魔力がなく、魔法は使用できませんでしたが、わたしの雷魔法は効いたと思います」

 わたしの説明に二人は頷く。

「そうか、怪我はしなかったか?」

「先に雌の魔法陣を破り消した時、怒りに満ちた雄の体当たりを受けてしまい、脇に痣か出来ました」

 アザと聞いた、カートラお兄様の額に深いシワがより、怖い顔になった。

(もしや、ここで!)

「リイーヤ、脇の痣を見せてみろ!」

 やっぱり、こうなった。

「カートラお兄様、ここは外ですし、ランドル様と近くに警備の騎士もおります。きゃっ、こんな所で服を掴まないでぇ!」

「俺に傷をみせろ!」
「おい、落ち着けカートラ!」

「お兄様!!」

 学園のときも怪我をすると、いつも『見せてみろ!』と言うお兄様。子供の頃は良かったけど、わたしはすでに大人で淑女なので無理。

「アザは、ナサに貰った傷薬でもう目立たなくなりました、手を離して……」

「ナサ? さっきの獣人か」
「獣人、ああ、こちらに来る時にすれ違った、半獣のあの方ですか?」

「はい」

「そうだ、カートラ。あの獣人、何処かで見たことがありませんか?」

「ナサを何処かで見たこと? んー、俺は覚えていないな」

「そうですか、私の覚え違いですかね」

「そうじゃないか? 学園、国にも獣人はたまに来るし……あれほど、ガタイのいい獣人は一度見たら忘れねぇ」

 ナサも村から出稼ぎに来ていると言っていたから、ランドル様の見間違いかな。それよりナサは宿舎に戻ったかな、また早くからミリア亭にいたりして……

(そうだ、わたしも一度家に戻って、店に行く支度をしないと……いまは何時?)

 北門からだと時計台は遠くて見られない、そのとき、ボーンボーンと時計の鐘の音が十二回なった。

 十二時だ。

「カートラお兄様、ランドル様。この後、仕事があるので、わたしは家に帰ります」

「仕事? ミリア亭か?」

「そうです。カートラお兄様、ランドル様、今日はお会いできて嬉しいですわ。失礼します」

「リイーヤ、その店は何時に開く?」

「…………え?」

 まさか、お兄様はミリア亭にまで来るきですか。しかし、いまここで時間をお兄様に伝えておかないと、家まできてしまう……、いいえ、わたしの家の場所はお兄様にすでにバレている。だけど、洗濯物とか、掃除が行き届いていない家に、お二人を招くわけにはいかない。

「今日はミリア亭は定休日です。ニ時頃に先程あったナサ達ーー亜人隊の方が休憩に来るので、お兄様とランドル様は来ないでください!」

「なに、亜人隊だと!」
「亜人の方達ですか」

 二人の瞳がキラリと光る。
 コレは火に油を注いだ感じ。

「二時だな、わかった。ランドル、俺たちは一旦、宿に戻って着替えるぞ」

「そうですね、私もこの目立つ鎧を早く脱ぎたいです」

 じゃまた後で、と二人はうきうきして戻って行った。

「ええ、お兄様、ランドル様!」

「また後でな」
「リイーヤちゃん、また後で」

 カートラお兄様とランドル様に来ないでと言ったのに……話を聞いてくない。

(……フウッ、みんなになんて言おう)

 小さくなっていくお兄様とランドル様の背中を見て、わたしは北門で肩を落とすのだった。
< 36 / 99 >

この作品をシェア

pagetop