寵愛のいる旦那との結婚がようやく終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい
五十二
パン屋からナサと並んで家まで帰る途中、わたしはポケットからお財布を取りだした。
「ナサ、パンのお金いくらだった?」
「パンのお金? 今日はオレの奢りでいいよ。次は朝食作って」
え、
「朝食? 次って、つぎもダンスの練習に付き合ってくれるの?」
何度も足を踏んだり、ターンに転けたり、つまずいてナサの胸元に顔を埋めるといった、壊滅的なダンスを披露したのに。
ナサはいつも通り笑って
「シッシシ、いくらでも付き合ってやるよ。リーヤの相手は、オレしか相手できないだろな?」
「うっ……ありがとう、ナサ。助かります」
とことん下手なわたしの練習に付き合ってくれるようだ。だったら、ナサの好きな朝食を作らないと。
「ナサの朝食はパン、ごはん?」
「オレか? オレはパンの方が多いかな?」
朝食は自分で作るのかと聞くと、宿舎の食堂で食べるらしい。朝から騎士団と顔を合わせるのが、嫌だと眉をひそめた。
「次に、ナサの好きな、オカズは?」
「ハムエッグとスクランブルエッグ、ソーセージ……あ、リーヤが前に作ったホットサンドが食べたい」
「ホットサンド? ホットサンドならわたしも好きでよく作るわ、あとはフレンチトーストとかね」
「フレンチトーストもいいな、蜂蜜たっぷりかけて食べたい……シッシシ、食いもんの話ししてたら腹減ってきた」
"グウッゥ"とナサのお腹が鳴った。
『フフッ、早く帰って朝食を食べよう』と、ナサと並んでわたしの家に帰ってきた。鍵を開け、お客さん用のスリッパを出して、ナサを招き入れる。
「散らかってるけど、遠慮せずに入って」
「おじゃまします。はぁ、腹減ったぁ」
ブーツを脱ぐサナより、先に入ったダイニングに。
昨夜お風呂の時に洗った下着が何枚か、洗濯干しハンガーにぶら下がっている。ちょうどブーツを脱ぎ終わり、入ろうとしたナサを止めた。
「ま、待って、ナサ、いま、コッチを振り向かないで」
「ん?」
ナサはわたしの慌てように"ああ"と、なにか気付いたようで、シッシシと笑った。
「リーヤ、慌てなくていい、落ち着け」
「ごめん、すぐに片付けるから」
ナサに玄関で待っていてもらい、わたしはチャッチャと洗濯干しハンガーを寝室に片付ける。
(……これで、いいわね)
「もういいよ、入って」
「おじゃします」
ナサをダニングに通して、キッチンでヤカンに水を汲みコンロでお湯を沸かして、コーヒーをいれる準備を始めた。
後ろのテーブルで、ガサゴソと袋の音を開ける音が聞こえる。
「はいお皿、座って先に食べていて、すぐにコーヒーいれるから」
「おお、それよりテーブルの下に、花柄のハンカチが落ちてるぞ……っ!!!」
「え? 花柄のハンカチ?」
(……そんな柄のハンカチって、持っていたかな?)
コーヒーをいれて振り向くと、ナサはテーブルのそばで頬を赤くして、尻尾をユラユラ動かしたまま固まっている。
「ナサ? コーヒーはいったよ」
声をかけると大きな体をピクッとさせて、わたしの方に手を突き出した。
「ハンカチ? ありがとう」
「いや、す、す、すまん、リーヤ……の、可愛いハンカチだと思って拾ったんだが、コ、コレって……リーヤのアレだよな、ごめん」
アレ?
「本当にごめん」
「?」
かなり焦っているナサに手渡しされた物を見ると、これはハンカチではなく、花柄の紐パン…………だった。
「ええ!」
(うわぁ、わたしのニ番目のお気に入りの下着! ……ううん、そうじゃない……下着をナサに拾わせてしまうなんて)
あーー、恥ずかしい。
「い、いま、片付ける途中に落としたんだわ。ナサ、拾ってくれてありがとう」
「い、いいや、そうか……ハハッ」
頬を真っ赤に染めて、わたしとナサの間に変な空気が流れた。
「ナサ、パンのお金いくらだった?」
「パンのお金? 今日はオレの奢りでいいよ。次は朝食作って」
え、
「朝食? 次って、つぎもダンスの練習に付き合ってくれるの?」
何度も足を踏んだり、ターンに転けたり、つまずいてナサの胸元に顔を埋めるといった、壊滅的なダンスを披露したのに。
ナサはいつも通り笑って
「シッシシ、いくらでも付き合ってやるよ。リーヤの相手は、オレしか相手できないだろな?」
「うっ……ありがとう、ナサ。助かります」
とことん下手なわたしの練習に付き合ってくれるようだ。だったら、ナサの好きな朝食を作らないと。
「ナサの朝食はパン、ごはん?」
「オレか? オレはパンの方が多いかな?」
朝食は自分で作るのかと聞くと、宿舎の食堂で食べるらしい。朝から騎士団と顔を合わせるのが、嫌だと眉をひそめた。
「次に、ナサの好きな、オカズは?」
「ハムエッグとスクランブルエッグ、ソーセージ……あ、リーヤが前に作ったホットサンドが食べたい」
「ホットサンド? ホットサンドならわたしも好きでよく作るわ、あとはフレンチトーストとかね」
「フレンチトーストもいいな、蜂蜜たっぷりかけて食べたい……シッシシ、食いもんの話ししてたら腹減ってきた」
"グウッゥ"とナサのお腹が鳴った。
『フフッ、早く帰って朝食を食べよう』と、ナサと並んでわたしの家に帰ってきた。鍵を開け、お客さん用のスリッパを出して、ナサを招き入れる。
「散らかってるけど、遠慮せずに入って」
「おじゃまします。はぁ、腹減ったぁ」
ブーツを脱ぐサナより、先に入ったダイニングに。
昨夜お風呂の時に洗った下着が何枚か、洗濯干しハンガーにぶら下がっている。ちょうどブーツを脱ぎ終わり、入ろうとしたナサを止めた。
「ま、待って、ナサ、いま、コッチを振り向かないで」
「ん?」
ナサはわたしの慌てように"ああ"と、なにか気付いたようで、シッシシと笑った。
「リーヤ、慌てなくていい、落ち着け」
「ごめん、すぐに片付けるから」
ナサに玄関で待っていてもらい、わたしはチャッチャと洗濯干しハンガーを寝室に片付ける。
(……これで、いいわね)
「もういいよ、入って」
「おじゃします」
ナサをダニングに通して、キッチンでヤカンに水を汲みコンロでお湯を沸かして、コーヒーをいれる準備を始めた。
後ろのテーブルで、ガサゴソと袋の音を開ける音が聞こえる。
「はいお皿、座って先に食べていて、すぐにコーヒーいれるから」
「おお、それよりテーブルの下に、花柄のハンカチが落ちてるぞ……っ!!!」
「え? 花柄のハンカチ?」
(……そんな柄のハンカチって、持っていたかな?)
コーヒーをいれて振り向くと、ナサはテーブルのそばで頬を赤くして、尻尾をユラユラ動かしたまま固まっている。
「ナサ? コーヒーはいったよ」
声をかけると大きな体をピクッとさせて、わたしの方に手を突き出した。
「ハンカチ? ありがとう」
「いや、す、す、すまん、リーヤ……の、可愛いハンカチだと思って拾ったんだが、コ、コレって……リーヤのアレだよな、ごめん」
アレ?
「本当にごめん」
「?」
かなり焦っているナサに手渡しされた物を見ると、これはハンカチではなく、花柄の紐パン…………だった。
「ええ!」
(うわぁ、わたしのニ番目のお気に入りの下着! ……ううん、そうじゃない……下着をナサに拾わせてしまうなんて)
あーー、恥ずかしい。
「い、いま、片付ける途中に落としたんだわ。ナサ、拾ってくれてありがとう」
「い、いいや、そうか……ハハッ」
頬を真っ赤に染めて、わたしとナサの間に変な空気が流れた。