寵愛のいる旦那との結婚がようやく終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい
五十四
ナサのいきなりの行動に、わたしは腕の中で困惑している。ほんとうに言いたくなければ、言わなくていいと思っていたから。
「ごめん、リーヤ。オレはリーヤが無垢だと知ってるなんて、言えるかよ」
「む、無垢⁉︎」
「あ、いや……なんで、オレは」
ツルッと口を滑らせて言ってしまったのか焦るナサと、無垢って、あの無垢? わたしが結婚をしていたことはみんな知っている……それとは別に未経験だとも知っている。
このことは両親以外、誰にも伝えていないのに。
「な、なんで、ナサはこの事を知ってるの!」
「あ、いや……すまん」
「すまん、じゃないわ。なんで知っているのか理由を教えて」
腕の中から見上げると、ナサは申し訳ない表情を浮かべて、ポツポツ言葉を探しながら話しだす。
「コレは、オレ達……獣人にしからない事で、その、リーヤから……リーヤからいい香りがするんだ。お前からは、いっさい結婚していた相手の匂いがしない!!」
「へっ?」
相手の匂い?
「あのさ、人間も結婚って好きあった番同士がするんだろ? だったら"オレのものだって"主張する相手の匂いが必ず、するはずなんだ。だけど、初めてリーヤと会ったとき……離縁をしたばかりにしては、ほんの、さわり程度の男の香りしかしなかった」
「⁉︎」
相手の香りが……さわり程度しかしないと、ナサの言っていることは当たっている。結婚していた二年の間は、彼にだけ都合のいい夫婦関係だった。
ナサに知られた恥ずかしさと、当時のやるせない気持ちが蘇り、わたしの頬を涙が濡らす。
「あ、クソッ! リーヤ、泣くなオレが悪かった……離縁も何か理由があったんだろ? もう、言わないから」
焦った声とナサの指が頬を滑り、流れる涙をぬぐう。
「ナサのバカ、バカ……バカ! わたしじゃない他の女性に、こんなことを言ったら失礼になるわ。絶対に言っちゃダメなんだから」
「い、言うかよ。他の奴なんて興味ない。リーヤだから香りが気になったんだ。リーヤ以外に香りが気になるヤツなんていねぇ」
「えっ、」
(わたしだから香りが気になるって、ナサ。それって、わたしのこと好きだって言ってるのと同じ?)
ドクンドクンと鼓動が高鳴る。
「あ、あのさ、リーヤ」
ナサらしくない震えた声と、ギュッと腕に力がこもる。
「アサトに言われていたんだ、オレとリーヤは違うって。嫌だったらダンス練習も辞めて近寄らないから、リーヤ、今までの通りで良いんだ。……だから、オレを嫌わないでくれ」
そんなか細い声で言わないで、
「ダンス練習は辞めないし、嫌わない……かなり、恥ずかしくて、照れるだけ」
腕の中で見上げてキッと睨むと、ナサは瞳を大きくして、そのあといつもの様に笑った。
「シッシシ、良かった」
「良くない、わたしは恥ずかしい。もう、怒った。ナサの嫌いなものばかり朝食に作るから、覚悟してね!」
「うーん、それに関しては覚悟はいらないな。リーヤが作るものならなんでも美味いぞ」
その言葉にドキンと、鼓動がさらに跳ねる。
「それは嘘、この前、ハンバーグを焦がしたとき、オムライスの卵が破れたとき……? あ、あれっ『焦げるな』『卵、下手くそ』と、笑っていたけど……残さず食べてくれた」
「だろう?」
何よ、嬉しそうに笑っちゃって。
コッチばかりドキドキする。
「決めた、ダンス練習のときに、ナサの足をいつも以上に踏むわ」
「おい、子供みたいなこと言うなよ。まぁ、リーヤが踏んでも、痛くないから別にいいけどさ」
だって。
「あー、コーヒー飲もっと」
「オレにもいれてくれる?」
「うん。すぐにいれるから、座って待っていて」
+
「あの、ナサ。ハッキリと聞くけど……わ、わたしから、どんな香りがするの?」
コーヒーをいれ終わり、向かい合って座っ後にナサに聞いた。ナサはサラッと、
「どんな香りって、甘い、オレの好きな香り」
「はぁい、甘い、ナサの好きな香り? そ、そうなんだよかった、変な香りじゃなくて」
(もう、ナサが好きだとか言うから……頬が熱い)
「シッシシ。それより、行く時間だな」
「えっ?」
リビングの時計を見て、ナサはコーヒーを一気に飲んだ。
「ほんとうだわ。準備してミリア亭に行かなくちゃ。ナサ、使ったカップとお皿はそのまま置いておいて、着替えてくるから待っていて」
と、寝室で着替えて、近くのエプロン取る。
その下に見えたカゴ。
「ダメ、見ちゃ、ナサ、見ちゃダメ!」
「な、なんだ?」
わたしはスッカリ忘れていたのだ。
できたら渡そうと思って、刺繍しているハンカチの入ったカゴを、エプロンでかくしたことを……
「ごめん、リーヤ。オレはリーヤが無垢だと知ってるなんて、言えるかよ」
「む、無垢⁉︎」
「あ、いや……なんで、オレは」
ツルッと口を滑らせて言ってしまったのか焦るナサと、無垢って、あの無垢? わたしが結婚をしていたことはみんな知っている……それとは別に未経験だとも知っている。
このことは両親以外、誰にも伝えていないのに。
「な、なんで、ナサはこの事を知ってるの!」
「あ、いや……すまん」
「すまん、じゃないわ。なんで知っているのか理由を教えて」
腕の中から見上げると、ナサは申し訳ない表情を浮かべて、ポツポツ言葉を探しながら話しだす。
「コレは、オレ達……獣人にしからない事で、その、リーヤから……リーヤからいい香りがするんだ。お前からは、いっさい結婚していた相手の匂いがしない!!」
「へっ?」
相手の匂い?
「あのさ、人間も結婚って好きあった番同士がするんだろ? だったら"オレのものだって"主張する相手の匂いが必ず、するはずなんだ。だけど、初めてリーヤと会ったとき……離縁をしたばかりにしては、ほんの、さわり程度の男の香りしかしなかった」
「⁉︎」
相手の香りが……さわり程度しかしないと、ナサの言っていることは当たっている。結婚していた二年の間は、彼にだけ都合のいい夫婦関係だった。
ナサに知られた恥ずかしさと、当時のやるせない気持ちが蘇り、わたしの頬を涙が濡らす。
「あ、クソッ! リーヤ、泣くなオレが悪かった……離縁も何か理由があったんだろ? もう、言わないから」
焦った声とナサの指が頬を滑り、流れる涙をぬぐう。
「ナサのバカ、バカ……バカ! わたしじゃない他の女性に、こんなことを言ったら失礼になるわ。絶対に言っちゃダメなんだから」
「い、言うかよ。他の奴なんて興味ない。リーヤだから香りが気になったんだ。リーヤ以外に香りが気になるヤツなんていねぇ」
「えっ、」
(わたしだから香りが気になるって、ナサ。それって、わたしのこと好きだって言ってるのと同じ?)
ドクンドクンと鼓動が高鳴る。
「あ、あのさ、リーヤ」
ナサらしくない震えた声と、ギュッと腕に力がこもる。
「アサトに言われていたんだ、オレとリーヤは違うって。嫌だったらダンス練習も辞めて近寄らないから、リーヤ、今までの通りで良いんだ。……だから、オレを嫌わないでくれ」
そんなか細い声で言わないで、
「ダンス練習は辞めないし、嫌わない……かなり、恥ずかしくて、照れるだけ」
腕の中で見上げてキッと睨むと、ナサは瞳を大きくして、そのあといつもの様に笑った。
「シッシシ、良かった」
「良くない、わたしは恥ずかしい。もう、怒った。ナサの嫌いなものばかり朝食に作るから、覚悟してね!」
「うーん、それに関しては覚悟はいらないな。リーヤが作るものならなんでも美味いぞ」
その言葉にドキンと、鼓動がさらに跳ねる。
「それは嘘、この前、ハンバーグを焦がしたとき、オムライスの卵が破れたとき……? あ、あれっ『焦げるな』『卵、下手くそ』と、笑っていたけど……残さず食べてくれた」
「だろう?」
何よ、嬉しそうに笑っちゃって。
コッチばかりドキドキする。
「決めた、ダンス練習のときに、ナサの足をいつも以上に踏むわ」
「おい、子供みたいなこと言うなよ。まぁ、リーヤが踏んでも、痛くないから別にいいけどさ」
だって。
「あー、コーヒー飲もっと」
「オレにもいれてくれる?」
「うん。すぐにいれるから、座って待っていて」
+
「あの、ナサ。ハッキリと聞くけど……わ、わたしから、どんな香りがするの?」
コーヒーをいれ終わり、向かい合って座っ後にナサに聞いた。ナサはサラッと、
「どんな香りって、甘い、オレの好きな香り」
「はぁい、甘い、ナサの好きな香り? そ、そうなんだよかった、変な香りじゃなくて」
(もう、ナサが好きだとか言うから……頬が熱い)
「シッシシ。それより、行く時間だな」
「えっ?」
リビングの時計を見て、ナサはコーヒーを一気に飲んだ。
「ほんとうだわ。準備してミリア亭に行かなくちゃ。ナサ、使ったカップとお皿はそのまま置いておいて、着替えてくるから待っていて」
と、寝室で着替えて、近くのエプロン取る。
その下に見えたカゴ。
「ダメ、見ちゃ、ナサ、見ちゃダメ!」
「な、なんだ?」
わたしはスッカリ忘れていたのだ。
できたら渡そうと思って、刺繍しているハンカチの入ったカゴを、エプロンでかくしたことを……