寵愛のいる旦那との結婚がようやく終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい
七十二
 ミリア亭てアサトとロカ、戻ってきたカートラお兄様とランドル様はテーブル席で頭を抱えた。

 お兄様は盛大なため息をつき。

「今日、奴の執務室で話してみてハッキリした事がある。皇太子殿下は舞踏会の日にリイーヤとの婚約発表をしたいみたいだ。俺に『カートラお兄さん、リイーヤ嬢の説得よろしくお願いします』とか言いやがった」

「ええ、笑顔で言っておりましたね。皇太子殿下はリイーヤちゃんをかなり気にいっていますね」

「そんなぁ……」

 お兄様とランドル様の話に驚くわたしと、ナサはガダッとカウンター席から立ち上がり、お兄様たちが座る席に移動した。

「はぁ? あの皇太子殿下はリーヤと婚約がしたいだと? リーヤは俺の婚約者になるんだーー絶対に渡さねぇ」

「俺もあの皇太子殿下にリイーヤは渡したくないな。それに両親はリイーヤが好きになったナサを推すだろう……しかし、相手はガレーン国の皇太子だからな」

「ほんと困りましたね。……何か良い案はないですかね……あ、そうです。リイーヤちゃんとナサ、二人とも婚約と結婚してしまったらどうですか? 夫婦になってしまえば皇太子も何も言えないのでは?」

「ナサとリイーヤが婚約、結婚か、いい案かもな……もう、それしかないか」


「「え、婚約、結婚⁉︎」」


 ナサとはいつか結婚するとは思っていたけど、こんなに早く……ナサがしたいと言ったら結婚は嬉しいかも。

「早いとこ、ナサを両親に紹介しないとな」

「えぇ。それと騎士団長のカートラが、リルガルドの国王陛下と王妃に承認を頼めば良いのでは? カートラは陛下の信頼が厚い」

 と、ランドルがその提案にお兄様は渋い顔をした。

「うっ、そうなると……陛下と王妃は俺に姫を紹介して、早く結婚しろと煩くなる。結婚はいつかするが、いまじゃない」

「逃げてばかりもいられませんよ」

「はぁ? 俺ばかり言いやがって、ランドルお前はどうなんだよ! お前もまだ婚約者いないだろう。舞踏会に出ればたくさんのご令嬢に囲まれているくせに!」

 お兄様に言われて、グッとランドルは言葉を飲み込んだ。

「わ、私は……その、女性にはいい思い出がなくて。うちには結婚した兄もいますから……私は、まだ結婚はしません!」

「ランドル、ずるい!」

 話が逸れて、お兄様とランドルはお互いの結婚の話をし始めた。どうやら二人はまだ結婚したくないらしい。

 お兄様は騎士団長に務めているから、剣をまだ極めたいのかもしれない。もしくはカートラお兄様の初恋の相手ーー男爵令嬢のアイリちゃんとの結婚に条件があるのかも。何か大きな功績を残さないと陛下と王妃から、結婚の許しが出ないとか。

(両親とアイリちゃんとの家族はーー家族ぐるみの付き合いをしている。公爵家にいた頃、よく屋敷に遊びにきていたもの)

「ナサの気持ちはどうだ? リイーヤを婚約と嫁にしたいのか?」

「カートラ、オレはいますぐにでもリーヤと婚約、結婚したい。だけど、リーヤの気持ちが一番大事だ」

「そうか。それでリイーヤはどうなんだ?」

「わたしはナサがお嫁さんにもらってくれるなら……喜んで婚約、結婚する」

「まじか! それなら早く、母ちゃんに手紙を書いて連絡しないと。……リーヤ、リーヤがオレの婚約者、嫁になるのか嬉しい!」

「きゃっ、ナサ!」

 テーブル席から立ち、カウンター席に座るわたしを持ち上げ、その腕に抱きしめた。
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