寵愛のいる旦那との結婚がようやく終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい
八十一
 昔々、この大地には若い竜の番がいた。
 二人は仲が良く、常に一緒に過ごしていた。



 ――ここは北の洞窟。

 真っ暗な暗闇のなかに、溶け込むように潜んでいる。

 かえして、かえして、私にあの人を。
 離れているのは悲しく、苦しい……

 私達は穏やかに静かに、悪い事などせず、二人仲良く、ひっそりと生きていたの。

 勝手に巣を破壊して、あの人を捕まえたのはそっち。

 私達が何をしたの?
 見た目が?
 存在自体が悪なの?
 
 なぜ?
 なぜ?


【あの日、二人仲良く寝ていたところに。大勢の人が押し寄せて、何もしていない、私とあの人を引き裂いた……】


 あの日。あの人は何かを察して【ここに隠れていて、すぐに戻る】と言った。あの人の言うことを聞き、私は目を瞑り、たくさんの足音に怯えた。

【怖い、私もでる】

【ダメだ、そこにいて、僕は平気だから……君はそこでジッとしているんだ……頼む、愛しい君】

【わかった。私、おとなしくしてる】

 しばらくして大勢の足音が消えて、瞳を開けて、外に出たのだけど……いつもいた場所に、あの人はいなかった。


【どこに行ったの? ……ああ、私を包む優しい温かさがない。優しいあの人の声が聞こえないよ?】

 悲しい、悲しいよ。

 やだ、一人はやだよ、寂しいよ。
 また、私を愛しい声で呼んで……


 私がいい子にして待っていたら帰ってくるの?

 ーーそうだ、そうよね。

 私は一人で、あの人を待った。
 何日、何十日、何百日と、待っていても帰ってこない。

 何処かで迷子になってる? 
 だったら、私が探さないと……

 いない、あの人がいない。


 いつしか私は人の言葉を理解した。
 竜から人にもなれるようになった。

 人との会話。

 そして、

 私は『呼び寄せ』の人を騙して、
 "骨集め"の人を殺して、いくつかの骨を奪った。
 
 魔力を持つ、私にだって"呼び寄せ"はできる。

 でもね。
 
『呼び寄せ』を使用するたび、私は呪われる。

『呼び寄せ』をした骨もまた、呪い骨に代わる。

 
 ーーごめんなさい。
 

 いま、私のしていることは非道だとわかっているの。

 ただ、私に愛する、あの人を返して欲しいだけ。


 ただ、会いたいの……
 ただ、静かに暮らしたいの。

 そのためなら、私は何でもできる。
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