寵愛のいる旦那との結婚がようやく終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい
八十四
「「ガオオオォォォォォォォォ!!」」
北区に鳴り響く、止まない獣の声。
この獣の声を聞いた後からナサの様子が変だ。
いつもならみんなを守る盾役として、我先にと北門へと走っていくのにどこか迷っているような、戸惑っているように感じた。
わたしはいつもよ様子が違うナサに、声をかけれずにいた。
「「ナサ!」」
ミリア亭の扉が乱暴に開き、ドアベルが"ガランゴロン"と鳴らして、アサトがナサの盾を持ってミリア亭に飛び込んでくる。
「……ハァハァ、ハァハァ。ナサ、北門にモンスターが出た、ロカ達は先に向かった……すまん! 今夜はリーヤと舞踏会だと知っているが、いまはお前の力が必要だ!」
「……わかった。リーヤ、ごめん」
「ナサ、謝らないの。ほら、一緒に北門に行くわよ! こんな状態で舞踏会だなんて呑気なことを言ってられないわ。被害を少なく、人々の誘導もしなくては! ミリアさんは安全な場所に避難していてください!」
「わかった、気をつけるんだよ」
アサトは先に行くといい出て行く、ミリアさんも出る準備を始めた。ーーしかし肝心のナサの"足が""体が"動かない。
「ナサ?」
「あ、ああ、行こう」
と、言っても。
まだ、両手をキツく握ったままで、足は動かず、どこか戸惑っている。ーーそんな、ナサの手をわたしは握った。
(え、ナサの体が震えているし、目に涙?)
はっ!
いま北門に現れたモンスターは、ナサの知り合い? ……ううん、ナサのこの様子だと。
今話していた、ナサの大切で、大好きなお父様!
なんて言うことなの!
わたしは息を吸い。
「大丈夫、何があってもわたしがそばにいるわ!」
「リーヤ…………」
ナサは泣きそうな顔で乱暴に手の甲で目をこすり、眉をひそめていたけど、いつものように笑った。
「シッシシ、行くか!」
「うん!」
わたしはナサと手を繋ぎ、盾を持って、走って、北門についた。そんな、わたし達の目の前に赤い炎をまとった、トラの獣人が立っていた。
先に来ていたアサト達は周りを囲むも、トラが身にまとう炎に近付けないでいた。
ナサはそのトラを見た瞬間に、半獣から姿を変えた。
「「親父、フォール親父ぃーーーー!!!!」」
ガルルル……トラはナサの叫んだ声に反応した。
ナサはわたしから手を離して、
「リーヤはここから動くな。もし、オレ達がやられたら、頼む、無茶をせずに逃げてくれ!」
わたしに大切な盾を預けて『リーヤ、行ってくる』と、ナサは目の前のトラに向けて走っていった。