今宵、幾億の星の下で
柳沢 玲
失恋
その夜、都内某所ではとある宝石店の旗艦店オープンイベントが行われていた。
芸能人やモデルたちが宝石を身に付け店を訪れ賑わせて、マスコミも多数押し掛け、取材を行っている。
きらびやかで豪華、しかし格調高い店舗で、背の高いスーツの男が一人の女性の手を引き登場した。
白いシンプルなシフォンドレスに、品のあるヒール靴。
背丈は長身の男性の肩くらい。
胸元、耳元で黄緑色の宝石が、主張するように輝いているが、女性の顔は完全にベールで覆い隠されていた。
男性がにこやかに口を開く。
「今宵はご来店いただき、誠にありがとうございます。最後に当店秘蔵の宝石をご紹介いたします。『フェレース・スコンベル』という名の宝石でございます」
見る角度、光、天気によっても輝きや色が変化するという、世にも珍しい宝石だった。
「予定にはありませんでしたが急遽、御披露目といたしました。世界でも類をみないただひとつの宝石です。わが社のシンボルともなっている『フェレース・スコンベル』共々よろしくお願いいたします」
拍手が沸き起こり、珍品と謎の美女(?)登場の効果もあり旗艦店オープンは大成功に終わった。
(……ああ。どうして、こんなことになってるの?夢みてるのかな、わたし……)
表情が見えないベールの奥で。
天文学のような値段を宝石を身に付けた女性は、半泣きだった。
そんな彼女の胸元で耳元で揺れる宝石は、落ち着いた黄緑色のまま、穏やかに輝いている。
それはまるで、飼い主の膝で眠る猫のようにも見えた。
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