今宵、幾億の星の下で
あの日から一ヶ月が過ぎようとしている。


あの気まぐれな宝石は外すことは出来たし、拓馬とも一夜限りかと思っていたが、やはり宝石が騒ぎだすとかで、そんなわけにもいかず。

別荘が気に入ったのか別荘の外へ持ち出そうとすると、ドアが開かなくなったり、車のエンジンがつかなくなったり、気まぐれな猫宝石は怪奇現象を起こし、抵抗するのだ。

そのため毎日ではないが別荘を訪れ『フェレース・スコンベル』を、なだめ慰めることが必要になった。

その度に拓馬は玲に同行し、求める。

拓馬の優しさと心地よさに、たびたび勘違いをしてしまうことがあるが、拓馬は既婚者だ。


ただの暇つぶしと、仕事上のやりとり……。
わかっているのに、拓馬から離れることができなくなってきている。


玲は改めて、市毛支店長を訪ねたことがあった。

気まぐれな宝石『フェレース・スコンベル』が支店にあったのは、市毛以外に扱えなかったからだと、拓馬に訊いたからだ。

「市毛さんには懐いていたんですよね。ここに帰った方が、いいんじゃないですか?」

玲の心配に、市毛は笑顔を見せた。

「玲さまのことを、飼い主さまが迎えに来られた。そう思ったのではないでしょうか」

伝説では宝石の持ち主の女性は花屋だったそうだ。
玲もまた、園芸店に勤めている。

「同じ匂いだったのでしょうね」

花屋をしていた女性は土と太陽の、玲と同じ匂いがしていたのだろう。

女性の側で平和に平穏に暮らしていたのに、いきなり知らないところへ連れて行かれ、近寄って来るのは香水と化粧の匂いの人間ばかり……。

贅を尽くした宮殿よりも、誰もいないふかふかの寝床よりも、大好きな飼い主の女性と狭いベッドで身を寄せあって眠る。

そんなささやかに過ごす方が幸せだったのだ。

「ひょっとしたら玲さんご自身も、記憶がないだけで生まれ変わりなのかもしれませんよ」


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