今宵、幾億の星の下で
兼森 航大

変化

その拓馬の別荘の庭に、好きな植物を植えていいという許可を得た玲は、その準備をしていた。

マタタビ科の植物に野菜の苗。

アパート暮らしの玲にとって、土地があるイコール、畑を作れるという考えがあったので、拓馬の許可は嬉しい限りだった。

「玲さん、お客さまです」
「はーい、いま行きます」

スタッフ専用のインカムで玲は呼び出され、入り口にむかうと……。

「……!」

玲に別れを告げ、結婚したはずの男。
兼森 航大(かねもり こうた)が立っていた。

玲とは同じ年齢の三十六才。
爽やかな短髪、人なつこい笑顔が魅力の男で趣味は釣り。

誰もが名前を知っている白物家電の電機メーカーに勤めている。


「久しぶりだな、玲」
「ええ、お久しぶり……。ごめんなさい。色々ありすぎて……あなたのこと、忘れていたわ」

ごめんなさい、からは音声にはしなかった。

嘘は云っていない。

玲がフラレた当日、出来事が多すぎて、元彼の存在は一気に薄れてしまっていた。


「何の用なの?」
「あのさ。ブライダルフラワーっていうの?あれ、安く作ってくれないかな」


なんでも結婚式費用をなるべく抑えたいとか。
玲は何から突っ込んでいいのか悩み、何度も瞬きを繰り返し、やがて順番に云うことにした。

「ねえ、それ……ブライダル費用をケチるため、っていうことよね?しかも、元カノに頼む?お嫁さんは何も云わないの?」
「いいから、作れよ。それしか取り柄がないだろうが」

航大はイラついたように語気が荒くなる。

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