今宵、幾億の星の下で
「この前の『勝倉宝石』のイベント。あれ、おまえだろう?いつから、あの社長とできてたんだ」
玲は硬直する。
その反応を見た航大はそんな玲を嘲笑った。
「どうりで泣きもすがりも、しないわけだよな。おれがいなくなって、せいせいしただろうよ」
「そんなわけ、ないじゃない」
なんとか、玲は云った。
好きな男にそれ以上嫌われたくなかったから、良い思い出にしたかったから、追いかけなかった。
二股をかけていたのは航大だが、今の玲には完全に否定することができない。
「なあ、勝倉には黙っててやるからさ。だから───」
脅しのような、そんなことを云いながら見下してくる。
こんな男だっただろうか。
結婚を考えていたというのに。
「お客さま。申し訳ありませんが、依頼はお受けできかねます。ボランティアではありませんので。お引き取りください」
玲が静かに、しかし毅然と云いきると舌打ちして踵を返す。
付き合っていた頃は、あんなに感情をむき出しに、しかもブライダル費用を値切りに走るような男ではなかった。
この一ヶ月の間に、向こうにも何か変化 があったのかもしれない。
後ろ姿を見送り様子を見ていた若いスタッフの女性、竜ヶ崎 睦(りゅうがさき むつみ)が玲に近寄り、こっそり教えてくれた。