今宵、幾億の星の下で
「結婚するから別れてほしい」
五年もの間、交際していた彼は、そう告げると柳沢 玲(やなぎさわ れい)の元を去っていった。
「……そう」
几帳面な男だった。
頻繁に連絡をくれていたが、それは単にこちらの行動の把握を知るためだったのだろう。
そしてそれは結婚相手に対しても同じだったと思える。
焦っていたのかもしれない。
玲の年齢は三十六才。
艶のあるショートヘア、切れ長の美しい瞳。
美人の上。
『特』はつかないが誰もが彼女を美しいという。
服装とメイクにもう少し気を配れば、ひょっとしたら絶世の美女なのかもしれない。
そんな勝手な評価をされる女性だった。
最後の恋になるかもしれない……いや最後にしたい。
そういう焦りを安心感で、自分を誤魔化していた。
だが結局、自分に結婚願望が本人あったのかはわからない。
玲は園芸店で働いているが、恋人と会うのに仕事帰りの泥のついたジーンズとシャツで会わないかも、と今さらになって思うからだ。
こういう時、忘れるために酒をあびるように呑んだりするのもいいのかもしれない。
恋人の後ろ姿を見送り、玲は自宅へ帰ることにした。
今日は誕生日だった。