今宵、幾億の星の下で
拓馬はアウトドアにも詳しく、登山もする。
休日を利用しては一緒に軽いハイキングをして、珍しい植物を見つけては喜んだり、二人の時間を楽しんだ。
そして料理が上手い。
代々、経営者で裕福な家庭で育ったものの、学校で必要な金以外は自分で稼ぐようにとの教育方針で、学生時代は料理人として金銭を得ていたらしい。
「お茶……えぐみもないし、甘味があって。拓馬の淹れるお茶は本当においしい。商売ができそう」
「光栄だね。老後の楽しみにするとしよう。今は山だが、海沿いもいいよな」
「いいわね、賛成」
他愛もない、恋人のような甘い会話、時間。
お互いに無心となり向き合えて、本来の自分の姿が見えたように思う。
しかしそれは永遠に続くものではない。
着地点のない関係を続けていても、いいわけもない。
自分が拓馬の正妻の立場だったら、相手を赦せないだろう。
殺したいとも思う。
だからこそ自暴自棄になって、拓馬と関係を結んだのではないか。
夜空の星は今宵もは美しい。
本当は、堂々と太陽の下で歩ける関係にならなければならない。
本気になってはいけない相手に、心を動かせられている。
「……玲。風邪をひくぞ……」
拓馬が半ば眠りながら、半身を起こした。
「ごめんね、起こしちゃって」
玲が笑顔でベッドへ戻ると、押し倒すように抱きしめ、肩に唇を這わせた。
「こんなに冷たくなって……」
「大丈夫だから」
「おれが大丈夫じゃない」
拓馬の唇が熱を帯びてくる。
流されている。
わかっているのに、拒否することもできなかった。
「好きだ、玲」
「ありがとう」
暖炉の上にある『フェレース・スコンベル』は、拓馬の飼い猫写真と共に安らかな輝きを見せている。