今宵、幾億の星の下で
山城雪乃(やましろ ゆきの)の実家は、世界に名だたる観光とホテル業を営んでいた。
夫は旅行会社を経営しており最高の組み合わせだと絶賛されていたが、流行性の治療薬のない病気が蔓延し、行動を制限され、あっという間に破綻してしまったのだという。
「知らなかった……」
「ニュースでも放送していたわ。もっと危機感をもった方がいいわよ」
真梨奈はスマホを開けばアプリゲームに、仲間との限られたやり取り。
それだけがあれば、じゅうぶんだった。
夫がいなくても実家がある。
大事な推しもいる。
涼葉は真梨奈の困惑を知ってか知らずか、紅茶を上品に傾けた。
「今まで知らないことがたくさんあって、毎日が楽しい」
これからは仕事に専念するため、アフタヌーンティーを減らすとも追加する。
「コミュニケーションはお金じゃ解決しないから、続けます。真梨奈さんも好きですから。参加は減りますけれど、仲良くしてくださいね。……ああ、それと」
涼葉が続ける。
「帰艦店イベントでの謎の女性。美しい方のようですね。……余計なお世話かもしれませんが、泥棒かもしれません。気をつけた方がよろしいかと思いますよ」