今宵、幾億の星の下で
運転手付きの車に乗ったままは、スマホ画面ではなく窓の外の風景を眺めた。
スーツを着たサラリーマン、自転車の学生。
子どもを連れた主婦、商店の店員……。
(私、ホッとしているの)
涼葉の言葉が脳裏に深く刻まれている。
拓馬は自分を選んだ。
そして信じていた。
結婚式で愛を誓った自分の夫が、他の女性に心を動かされるはずがないと。
しかし真梨奈自身は拓馬を、どうとも思っていなかった。
父親の選んだ都合のいい男、そういう認識であったから。
「うらやましい……」
ぼそりと真梨奈の口から、言葉が漏れた。
いつか、この形だけの結婚から自分を連れ出してくれる、本当の王子が迎えにくる。
ある意味、一番純粋で無垢な女性であったのかもしれない。
「どうかされましたか?」
運転手はハンドルを握り正面を向いたまま、後部座席の真梨奈に話しかける。
「訊いてください、運転手さん。私には大切な推しがいるんです。自立してゲーム会社を立ち上げて、アイドルグループも作って。何かできないかなあって」
にこやかに穏やかに運転手は訊いていたが、瞳はどこか険しい。
それが金に困った航大だと、この時点では誰も知らなかった。
そして───。
自宅へ戻った真梨奈は、リビングテーブルに置かれた書類一式と手紙を見つけ内容に目を通す。
わなわなと手が震え、破ろうとした手が止まる。