今宵、幾億の星の下で
恋を失い傷心した玲が、街に向かっている頃。
宝石会社『フェレス・スコンベル』取締役社長、勝倉 拓馬(かつくら たくま)は旗艦店オープンイベントに向かうため、社用車後部座席へと乗り込んだところだった。
長身で均整のとれた体格にオーダースーツがよく似合う。
日焼けした肌に黒い髪、冷静な瞳。
三十三才と若いが落ち着きがあり、トップにふさわしい貫禄を備えている美丈夫で、とりわけ女性からの人気が凄まじい。
「出してくれ」
「かしこまりました。……?」
「妻はこない」
運転手の疑問がわかっていたように答え、拓馬は一言で片づけた。
高級セダン車は走り出す。
「仕方がない……」
拓馬の黒い瞳には車窓から流れる夜の街の風景が映っていたが、脳裏では自宅でのやり取りが流れていた。