今宵、幾億の星の下で
「火事が起きたとき、おれは自分の車のなかだったんだ。別荘は完全なプライベートな場所だから、ひとりで出かけた」
運転中、市毛支店長から電話が入り、こう告げられたという。
「『社長、お亡くなりになられたんですか?』とね」
不審に思った市毛女史は拓馬の安否確認をしつつ、周囲の動向を探っていたらしい。
「市毛さんらしいですね」
「それから勝手に物事が進んで、弁護士と相談して様子を窺っていた。おれは死んだことになっていたから、君に連絡ができなかった……すまなかった」
「え、でも……じゃあ、あの遺体は!?」
山荘の焼死体は確かに拓馬の結婚指輪をしていた。
拓馬の表情が曇る。
「別荘に迷いこんだのは、痴ほう症を患っていたお年寄りだったんだ。徘徊していて、たどり着いたらしい」
たまたま見つけた結婚指輪と『フェレース・スコンベル』。
悪意はなかったのだろうが、剥き出しで無造作に置かれた結婚指輪は身につけ、ケースに収納してあった『フェレース・スコンベル』を手にして外に出ようとして……。
無関係な老人は火事に巻き込まれた。
背格好が拓馬によく似ていて、しかも拓馬本人の指輪をしていたとなれば、間違われても仕方がない。
「家族を探しだして、できる限りの賠償を行った。とうてい赦されるものではないが……」
その後、妻であった真梨奈とも正式に離婚が成立した。
運転中、市毛支店長から電話が入り、こう告げられたという。
「『社長、お亡くなりになられたんですか?』とね」
不審に思った市毛女史は拓馬の安否確認をしつつ、周囲の動向を探っていたらしい。
「市毛さんらしいですね」
「それから勝手に物事が進んで、弁護士と相談して様子を窺っていた。おれは死んだことになっていたから、君に連絡ができなかった……すまなかった」
「え、でも……じゃあ、あの遺体は!?」
山荘の焼死体は確かに拓馬の結婚指輪をしていた。
拓馬の表情が曇る。
「別荘に迷いこんだのは、痴ほう症を患っていたお年寄りだったんだ。徘徊していて、たどり着いたらしい」
たまたま見つけた結婚指輪と『フェレース・スコンベル』。
悪意はなかったのだろうが、剥き出しで無造作に置かれた結婚指輪は身につけ、ケースに収納してあった『フェレース・スコンベル』を手にして外に出ようとして……。
無関係な老人は火事に巻き込まれた。
背格好が拓馬によく似ていて、しかも拓馬本人の指輪をしていたとなれば、間違われても仕方がない。
「家族を探しだして、できる限りの賠償を行った。とうてい赦されるものではないが……」
その後、妻であった真梨奈とも正式に離婚が成立した。