今宵、幾億の星の下で
幾億の星と宝石
数年がたち───。
南半球にある、とある国である。
海沿いを、とことこと鯖模様の猫が歩いていた。
緑色の首輪にはキラリと光るチャームが揺れている。
それを見かけたサーフボードを担いだサーフィン帰りの若い男女が、目で追う。
「あの猫、よくわからねぇが、いい首輪つけてるなあ」
「ああ、町外れで喫茶店と、園芸店を経営している夫婦の猫だよ。夫婦も同じ宝石の指輪を付けているの。ラッキーね、あの首輪をつけた猫に会うと幸せになるんだって」
「へえ!じゃあ、今日は何かいいことがあるかな」
二人の会話が聞こえているかは不明だが、見回りを終えた鯖模様の猫は耳を動かし、灰色と黒の輪っか模様の尻尾を立てて飼い主のところへ帰っていく。
そろそろ赤ん坊が起きる時間なのだ。
『フェレース・スコンベル』は呪いの宝石ではなく、幸運と幸せをもたらす宝石として、受け継がれていくだろう。
そう、誰にも知られずに、ひっそりと。
無限の愛と祝福をもたらす宝石は、幾億の星の下で。
『今宵、幾億の星の下で』終わり
2022.5.21→6.4.