今宵、幾億の星の下で

───


「前から話してあっただろう。今日はオープン日で、君も来るようにと」

五才年下で二十七才の妻である真梨奈(にまりな)はベッドで着替えもせず、スマホ画面から目を離さない。


「今日はイベント日だから。絶対にムリ。友達とも約束しちゃったし」


アプリゲームで一日限りの数時間限定のイベントがあるとかで、夫とは同伴しないという。


「パパも別に出なくてもいいって、云ってたもん。ずっと謎の奥さんでいたし、今さら行かなくても、いいと思わない?あの宝石だって、今回も着けられないんでしょ。そんなことより、ねぇ。お小遣いちょうだい」


真梨奈の父親は某食品メーカーの幹部だが娘に甘く、否定を訊いたことがない。
年齢の割に若くみえるのは、性格の幼さゆえであろう。

緩いふわふわしたツインテール。
キャンディカラーのポップな服。

かわいいし似合っているが、彼女は二十七才なのだ。
結婚した当初と変わっていない。
良い意味でも、悪い意味でも。

そして彼女の云うあの宝石とは、勝倉宝石のシンボルともなっている『フェレース・スコンベル』のことだ。

社長の妻である真梨奈が宝石に近づいただけで、金庫の鍵が開かなくなったり、ひどい時は宝石店に入ることもできなくなる。

それはまるで、威嚇する猫のように拒絶するのだ。



「……わかった。もういい」


彼はそれ以上は口を開くことはなく、車に乗り込んだのだった。
外に向けていた瞳が何かを思いだしたかのように、現実へと光が戻る。


「旗艦店へ行く前に支店へ寄ってくれ。持っていきたい宝石がある」
「了解しました」


所有の宝石だが、持ち出せるのか不明。
そんないわく付きの代物を御披露目できるのか……。


拓馬の思いを乗せた高級セダンは支店へと向かい始めた。
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