今宵、幾億の星の下で
「この宝石は人を選びます」


疑問に答えるかのように、市毛女史は鏡のなかの玲を見つめる。


「わたくしには、宝石がお客さまを店内に招き入れた。そのように感じます」


ミステリーのようなファンタジーのような、そんな話しをすると玲に装着させた。
輝きが増し色がくるくると変化し、やがて落ちつく。


「ご覧ください、宝石も喜んでいますよ。輝きが違います」


市毛支配人は感激して玲を見つめ、他のスタッフも感嘆の声を漏らし、奇跡の場面を見守っている。

緊張でどうにかなりそうだと思っていた玲だが身につけてみると、愛しく可愛いという、不思議な感覚に陥る。

久しぶりに会ったペットとの再会のような、そんな気持ちだった。

胸元、耳元で輝く黄緑色の宝石。
見る角度によっては黄色、金色、茶色にも見えたりする不思議な宝石。

玲はそっと手を伸ばし、ペンダント、ピアスに触れた。

そっと撫でるように。

宝石の色と艶が途端にざわめき、部屋の明かりは変わらないのに揺らめいている。

甘え、喉を鳴らす猫のようだ。


「ふふ、いい子ね。……すごい素敵で、本当に綺麗です。買えないですけれど、とてもいい記念になりました。もうじゅうぶんです、ありがとうございます」


涙ぐみ感動したままの市毛が頷き、留め金具に手をかけたが……。


「あら?外れないわ」


まるで意志があるかのように、留め具が外れず、これ以上に力を込めれば引きちぎりかねない。


「え?」
「お客さま、やはり気に入られてしまったようですね。この宝石、実は試着できる人も少なかったんです」


試着をしても逆に留め具ができなかったり、そもそも触れることすらできない日もあったそうだ。


「なんですか、それ……呪い?」
「そんな恐ろしいものではありませんよ。この子はおそらく、持ち主を自分で探しているだけなんです」


それが呪いというのでは。

というか今のこの状況……新手の押し売りだろうか、と玲が困惑していると。

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