神殺しのクロノスタシスⅣ
「イーニシュフェルト魔導学院は魔導師養成校として、国内最高峰の学院。つまり、最も多く、最も優秀な魔導師を輩出する教育機関。魔導師排斥論者からすれば、兵器工場みたいなものです」

兵器…兵器工場。

あながち、間違った例えではないのかもしれないが。

しかしうちの生徒は、断じて兵器などではない。

一人の、ちゃんと意思を持った人間だ。

それを勝手に、危険な兵器扱いされちゃ困る。

「元々、目をつけていたんでしょうね。きっと…。ずっとこの日を待ち侘びて…」

「だからと言って、爆弾なんて…。生徒を殺害する気満々じゃないですか」
 
実際、殺したかったんだろうな。

「国内でも幅を利かせている、最高峰のイーニシュフェルト魔導学院…。そこの生徒を殺害すれば、間違いなく世論は大きく動きます」

と、シュニィが言った。

「全国にいる魔導師排斥論者達は、この『朗報』にますまず勢いづくでしょうし…。その他の国民は、生徒を守りきれなかった学院の教員や、学院卒業生の多く集まる、聖魔騎士団魔導部隊を責めることでしょう」

「別に学院長達が悪い訳じゃないのに、不思議な話だよねー」

「うん。責めるのなら、爆弾用意した『サンクチュアリ』の方を責めれば良いのにね」

子供達が正論言ってるぞ。

俺もそう思うが。そう上手く行かないのが世論というものだ。

「そして、この風潮に流され…。国内の魔導師養成校は、ますます人々から敬遠され、危険視され…。魔導師への風当たりも、強くなるでしょうね」

「…酷い話だ」

「えぇ、酷い話です。しかし現状…私達に、味方はいません」

…もっと酷い話だよ、それは。

「どうやら『サンクチュアリ』は、過去に魔導師が起こした不祥事や、危険な魔法を敢えて強調した、新聞やビラをばら撒いては、国内の非魔導師を煽っているようです」

シュニィの報告は続く。

「皆さんには、黙っていましたが…。聖魔騎士団も、槍玉に上がっているのです」

「えっ…」

俺は、思わず声をあげた。

何だって?

「聖魔騎士団魔導部隊は当然のことながら、魔導部隊を内包している聖魔騎士団という組織そのものも、攻撃されています」

そんな…。

でも…魔導師養成校がターゲットにされているなら…魔導師の精鋭達が集まる、聖魔騎士団魔導部隊が標的にされるのは、当然と言えば当然だ。

更に、シュニィは自嘲気味に言った。

「それに…特に魔導部隊の部隊長は、アルデン人である私ですから。余計に…私が魔導部隊を操り、良からぬことを企んでいるに違いないと…」

「シュニィ…!そんなことはない!あんなものはただのデマだ!」

自分の最愛の妻が、自分を扱き下ろすような発言をしていることに、耐えられなくなったのだろう。

アトラスが、シュニィの言葉を遮るようにして声を上げた。

その通りだ。

シュニィが魔導部隊を利用して、良からぬことを考えているなど…馬鹿げているにも程がある。

「良いんです。国民達の中に、そんな意見を持つ者がいることは知っています。それに…そう思われても仕方ありません。私はアルデン人ですから…」

「馬鹿を言うんじゃない。お前が何処の誰だろうが、お前が誰より部隊のことを考え、これまでルーデュニア聖王国の為に貢献してきたか…聖魔騎士団の人間なら、誰でも知ってる。何も知らない一部の民衆が、大袈裟に騒ぎ立ててるだけだ」

アトラスの言う通りだ。

シュニィが誰より誠実に、国の為に尽くしてきたか…ここにいる誰もがしっ、

「アルデン人って何だろう?知ってる?『八千歳』」

「えー、知らないの?ぱすたって食べ物のことだよ」

「えっ、じゃあこの人、ぱすたを自称してるの?」

「危ない人なんだよ、きっと」

…。

…なんつーか。

本当、ごめんな?この子供二人、全ッ然躾がなってなくて。
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