神殺しのクロノスタシスⅣ
すると。

またしても、無邪気そのものの元暗殺者組が声を上げた。

「ねぇ、その『サンクチュアリ』がそんなに危ないことするんだったら、捕まえれば良いんじゃないの?」

と、令月。

「そうそう。学院に忍び込んだのは『サンクチュアリ』のメンバーだったって割れてるんでしょ?縄で縛ってやれば良いんだよ」

と、すぐり。

縛るなよ。せめて手錠にしろ。

「はい。ですが…『サンクチュアリ』を逮捕する、その証拠がないんです」

シュニィが答えた。

やっぱり、そうなるか…。

「証拠?」

「はい。今回の場合…爆発物を仕掛けたのが『サンクチュアリ』のメンバーである、という証拠は、ナジュさんの読心魔法と、そこにいる…エリュティアさんの探索魔法による証拠しかありません」

「あるじゃん、証拠。それ使っちゃ駄目なの?」

「駄目…駄目という訳ではないのですが…」

口ごもるシュニィに、ナジュが代わりに言った。

「少なくとも、僕の読心魔法は証拠になりません。読心魔法による証拠は、ルーデュニア聖王国では裁判の証拠として認められていませんからね」

…そうなのだ。

読心魔法という特殊な魔法そのものが、ルーデュニア聖王国では、ナジュを除いて確認されていないし。

こんな言い方はアレだが、ナジュ本人も、国内では監視下に置かれるべき人間だからな。

本当なら、今でも刑務所に入っていなければならない立場なのだが。

そこをシルナが無理矢理口実をつけ、フユリ女王の温情によって、こうして学院の教師をやっているだけで。

だから、そんな危険人物(仮)のナジュが、「この人達悪いこと企んでますよ」と言ったって。

「お前の言うことは信じられない」と言われるのがオチ。

ナジュの証言は、信じるに値しないと言われてしまうのだ。

俺達にとっては、憤慨モノだけどな。

今まで何度、そのナジュの読心魔法によって助けられてきたか。

そして。

「それに…僕の探索魔法も、証拠としては弱いんだ。ナジュさんの読心魔法もそうだけど、こういう魔法は個人の主観で判断するものであって、全ての人の目に見える形で、証拠を提示出来る訳じゃないから」

エリュティアは、何やら難しいことを言ってるが。

要するに、読心魔法も探索魔法も、魔法を使っている本人にしか見えないものだから。

何も知らない第三者が、「本当に?お前嘘ついてんじゃないの?」と指摘されたら、言い返せないのだ。

俺達は、ナジュやエリュティアが真実を語っていると信じているから、彼らの証言を本物だと確信しているが。

二人を知らない人々にとっては…更に、魔導師排斥論者達にとっては…。

「そんな訳の分からない魔法が、証拠になる訳がないだろうが」と一蹴される。

それでも、聖魔騎士団魔導部隊大隊長の立場をであるエリュティアの証言なら、裁判で立証出来るかもしれないが…。

今回の相手は、魔導師排斥論者。

エリュティアの証言など、絶対に聞き入れないだろう。

裁判が長引くのは目に見えているし、その間に『サンクチュアリ』が余計刺激され、過激な行動に出るのは目に見えている。

「そもそもね、令月君、すぐり君。魔導師排斥運動そのものは罪じゃないし、『サンクチュアリ』の存在も罪じゃないんだ」

「爆弾持ってるのに?」

「それも証拠がないしね。私達としては、どうにも…」

と、シルナが言いかけたとき。

「いや。俺達は、もう『サンクチュアリ』のやり方を、黙って見ているのはやめようと思っている」

アトラスが、シルナの言葉を遮ってそう言った。

…え?
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