神殺しのクロノスタシスⅣ
「ジュリス…?どうしたんだ?捜査に…何か進展が?」

突然のジュリス君の来訪に、羽久がそう尋ねた。

しかし。

「いや、何も進展はない。四人の行方も、『サンクチュアリ』の構成員の行方も、依然として分かってない…。だから、ここに来た」

…そうだろうね。

「だから、って…。それは…」

「あんたに話を聞きに来たんだよ、シルナ・エインリー」

ジュリス君は、真っ直ぐに私を見つめてそう言った。

相変わらず容赦のないことだ。

でも、それが出来るのもまた、彼だからこそだ。

私と同じ時代を生きた、彼だからこそ。

「…!」

ジュリス君の言葉を聞いて、羽久は眉をひそめた。

それでも、ジュリス君は構わなかった。

「あんたなら、あれが何か知ってるんだろう?初めてあれを見たときから、知ってる顔だったもんな」

…やっぱり、バレるよね。

ジュリス君の目を欺くことは出来ない。

私自身、みっともないほど狼狽えてしまった自覚がある。

「話してもらおうか。いい加減、黙り続けるのはやめてくれ」

「ちょっと待ってくれ」

羽久が、そう言ってジュリス君を制した。

「何で、シルナに聞く?」

「あんたも気づいてるんだろう?シルナ・エインリーは、あれが何なのか知ってるんだ。少なくとも、俺達より遥かに情報を持ってる」

…その通り。

「このままじゃ、捜査は何も進まない。消えた四人の行方も分からない。だったら、少しでも手がかりになるものを探さなければ」

「それは…俺だって気づいてるけど、だからって…シルナが敢えて話したくないことを、無理矢理聞き出すのか?」

「勘違いするな。俺も本意じゃねぇよ。奴が敢えて隠したいことなら、無理に詮索はしたくねぇ…けど、そんなこと言ってられる状況か?」

「…っ」

これには、羽久も言い返す言葉がなかった。

事実だもんね。ジュリス君の言ってることは全て。

「なぁ、言いたくないのは分かってるよ。多分あんたにとって、思い出したくない記憶なんだろう。でも…このまま黙し続けたら、消えた四人はどうなる?」

…痛いところを突いてくる。

「一生戻ってこられないかもしれないんだぞ。あんた、それで良いのか?あの四人を見殺しにしてまで、隠さなきゃならないことがあるのか?」

「ジュリス…!シルナに、そんな脅すような…」

「さっきも言っただろ、俺だって本意じゃない。でもこれ以外に現状、方法はない。俺は、救える方法が残ってるかもしれないのに、みすみす仲間を見殺しには出来ない」

「…」

…そうだね。

君の言う通りだと思うよ、私も。

「でも…!だからってシルナを…」

「どうしても言いたくないって言うなら、それでも良い。この学院にいる…読心魔法使いの教師に聞くだけだ。あいつも知ってるんだろう?」

「…!それは…」

ナジュ君のことだね。

ジュリス君の推測は正しい。ナジュ君も、私が何を隠しているのか知っているはずだ。

一昨日、あの現場を見た後学院に戻ってから。

彼は一度、私に会っている。

そのときナジュ君は、私の心の中を見たはずだ。

そして、私の隠していることを知ったはず。

それでも今日に至るまでナジュ君は、誰にも、何も言わなかった。

心を読んだとき、私の隠していることと同時に、私がその事実を隠したがっていることも知ったから。

だから何も言わず、昨日も今日も、学院長室には来ていない。

多分、園芸部の方に行ってるんだと思う。

優し過ぎるんだよ。私の周りは。

ナジュ君と言い、イレースちゃん達や…羽久も。

皆優し過ぎるから、つい、甘えてしまいたくなって…。

…でもジュリス君なら、私に真実を尋ねることが出来る。

彼だけは…私と対等に、私に詰問することが出来る。

彼は私の教え子ではないし、それに、彼は私と同じ時代を生きた者だから。

…ジュリス君に聞かれれば、これ以上隠し事は出来ない。
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