神殺しのクロノスタシスⅣ
…あぁ、とうとう言ってしまった、と思った。

でも、遅かれ早かれ、言わなければならなかったことだ。

今更出し惜しみしていても仕方ない…。

「…魔封じの…」

「あらゆる魔を封じ、魔法を無効化する力を持つ石だ。…里の賢者達にとっては、当然目の仇にされるような代物だよ」

あの場所では、世界にある全ての魔導の粋(すい)が集められていた。

しかし、その魔法を無効化する力を持つ、魔封じの石。

それは里の賢者達にとっては、最も恐ろしい力だった。

何せ、どんなに偉大な魔法でも、無効化されてしまったら何の意味も持たないのだから。

「あの会議室にあった魔法陣は…魔封じの石の力を以て作られたものだと思う。『魔封じ』だから、当然魔法は通用しないし、魔導師には扱えない…。でも、魔導適性を持たない一般人なら、簡単に扱える」

「そんな…。じゃあ、『サンクチュアリ』の連中は…。その石を手に入れて、聖魔騎士団魔導部隊の魔導師達を罠に嵌めようと…」

「そういうことだろうね」

それが、『サンクチュアリ』の切り札だったのだ。

「成程ね…。妙に挑戦的と言うか…過激なことをすると思ったら、そんな切り札があったから、大胆に行動出来た訳か…」

と、ジュリス君が言った。

むしろ彼らは、大胆な魔導師排斥運動を行うことで、聖魔騎士団が動くのを待っていたんだろう。

そして、自分達を捕まえに、のこのこやって来た魔導師達を。

虎の子である魔封じの石で…罠に嵌めて…。

…結局私達は、『サンクチュアリ』の思うがままにされたのだ。

「そんなものが…存在していたなんて…。ジュリスは、知ってたのか…?」

羽久が、呆然としてジュリス君に尋ねた。

「いいや、初耳だ。あの時代にも…魔封じの石なんて、聞いたことがない…」

…それもそうだと思うよ。

「魔封じの石は…里の中でも、禁忌の力だったからね。決して外には出さなかったし、取り扱いも厳重だった…」

「だろうな。そんなものが出回ったら、里の賢者達の身が危なくなる」

魔封じの石、だからね。

魔導師達の手に負えない力を、みすみす野放しにしておくことは、出来なかった。

里の賢者達は、魔導に優れているが故に。

その魔法を無効化されることを恐れて、魔封じの石の存在を、外に漏らさないようにしていた。

「それで…。そんな危険極まりない魔封じの石が、何で今頃になって、『サンクチュアリ』が手にしたんだ?」

問題は、そこだよね。

そんな、魔導師にとっては非常に危険な力がある…ことは分かった。

じゃあ何で、今になってそれが、世に出てくることになったのか?

しかもよりにもよって、最も魔封じの石を欲しがっているであろう、魔導師排斥論者の手に渡ることになったのか…。

こればかりは、確実なことは言えない。

私だって、いきなりあんな…過去の遺産が出てきたことに、動転しているくらいなんだから。

「魔封じの石は…その危険性故に、イーニシュフェルトの里の賢者達が、厳重な封印を施したんだ」

と、私は説明した。
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