神殺しのクロノスタシスⅣ
「封印…」

「うん…。封印場所は、私でさえ知らない。里の長老達が、特別な仕掛けを施して…安全なところに封印したと言っていた」

これは事実だ。

私も、封印の在処までは、知らされていなかった。

ただ、封印した後になって、「然るべき場所に封印した」と聞いただけだ。

里の長老達が、勝手に決めたことだ。

私の預かり知るところではない。

でも、それ故に…。

里の長老達が封印したから…厳重に、外に出てこないよう封じたものだから…。

もう決して、目にすることはないと思っていた…。

「それが、何で今頃出てきた…?」

「…分からない…。何者かの手によって、封印が解かれたとしか…」

封印していたものが、外に出てきているのだから。

封印は解かれた、としか考えられない。

でも、一体どうして…いつ、誰がそんなことを…。

しかも、今頃になって…。

「分かった…。じゃあ、質問を変える」

と、ジュリス君が言った。

「封印が解かれたのは仕方ない。あんたが、その魔封じの石について、隠していたかった理由も…何となく分かった」

…。

…私にとっては、思い出したくないことだからね。

イーニシュフェルトの里にいた頃のことは…。

「それはもう良い…。過ぎたことはどうしようもない。でも、それなら…消えた四人は、今何処にいる?」

ジュリス君が本当に聞きたいのは、そこだったんだろう。

真剣味が違う。

そして私は、彼の気持ちに応えたいと思っている。

ジュリス君は、消えた四人の行方が知りたくて…わざわざ悪役を演じてまで、私に聞きに来たのだから。

だから、答えを知っているものなら、答えてあげたいのは事実だ。

…でも…。

「…四人が何処に行ったのかは、分からない」

「…」

…さすがに、こればかりは。

もし知っていたなら、とっくに話してる。

「四人共、魔封じの石によって作り出された魔法陣で、異次元の世界に強制転移させられたとしか…。それが何処なのかは、私にも分からない」

「…そうか」

「…何処にいるのかは分からない、けど…」

付け加えておくべき情報が、三つある。

一つ目は、多分有益な情報だ。

「あの魔法陣は、魔封じの石によって作り出されたものだから…魔導師にしか反応しない」

「…!ってことは、非魔導師が魔法陣に入っても、何ともならないのか?」

『サンクチュアリ』の人達が、どういう発動条件で魔法陣を呼び起こしたのかは、分からないけど。

でも、『サンクチュアリ』の人達は、間違いなく非魔導師だ。

一般人でも通じる魔法陣を作ったのでは、自分達まで異次元に飛ばされてしまう。

だから、あの魔法陣が反応するのは、魔導適性を持つ魔導師だけだろう。

「アトラスが、魔法陣の中にいても消えなかったのは…そのせいだったのか」

「恐らくね…」

アトラス君は、保有魔力量は多くても、魔導適性はないから。

だから、アトラス君は魔法陣の発動条件を満たさなかった。

「成程…。それじゃ、非魔導師ならあの魔法陣や水晶玉…魔封じの石に触っても、大丈夫ってことか?」

「影響はないだろうけど…。それでも、みだりに触れれば、また『サンクチュアリ』のように、魔封じの石を悪用する可能性があるから…」

「あぁ。確認しておきたかっただけだ。あの場所への立ち入り禁止を、解除するつもりはねぇよ」

それなら良かった。

…でも。

残る二つの情報は、あまり良い情報とは言えない。
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