神殺しのクロノスタシスⅣ
時刻は、午前7時過ぎ。

生徒が登校するには、まだ早い時間のはず。

教師達は全員ここにいるし…。

訪ねてきたのは、一体何者だ?

「はい?」

イレースが、ノックされた扉を開ける。

すると、そこにいたのは。

「あのぅ…。おはようごさいます…」

「え…。ユイト君?」

ユイト・ランドルフ。

学生寮で、令月のルームメイトに当たる人物だ。

何かと迷惑をかけてしまっている彼が、今日はまたしても、不安そうな顔をして、そこにいた。

…嫌な予感がする。

「どうしたの?何かあった?」

シルナが慌ててユイトに駆け寄って、声をかける。

すると、ユイトは。

一枚の半紙を、そっと差し出しながら言った。

「朝起きたら、令月君がいなくて…」

ユイトのその一言で、俺は頭から血の気が引いた。

…まさか。

「その…この置き手紙が、ゴザの上に…」

「えっ…」

俺達は、ユイトが手渡した半紙の置き手紙を覗き込む。

するとそこには、筆で書かれた綺麗な行書体で。

『年末には帰ります。』

…とだけ。記されていた。

…。

「…一人暮らしの学生みたいですね」

ポツン、とナジュが呟いたきり。

一同、無言であった。

あ、あいつ…。まさか…まさかとは思うが…。

も、もし俺の今の仮説が正しいとしたら、あいつは今頃…。

ふつふつと胸の奥に滾るものが湧いてきた、そのとき。

更に、別の生徒が、学院長室にやって来た。

「あ、あのぅ…。学院長先生…」

「な、何…?」

見覚えがある。あの生徒。

確か、すぐりのルームメイト…。

ますます、頭から血の気が引いていくのか分かる。

「今朝、すぐり君がいなくて…。代わりに、ゴザの上に置き手紙があって…」

と、差し出してくるのは、やっぱり半紙に、今度は筆ペンで。

『ちょっと異次元旅行行ってきま〜す。
追伸 ナジュせんせー、ツキナへの言い訳宜しく〜。』

と、軽いノリで記されていた。

「ちょっと県外まで遊びに行ってくるね☆」みたいな、軽いノリで。

…。

「あ、あの…」

「学院長先生…」

二人の憐れなルームメイト達は、俺達の顔色を伺っていた。

それもそうだろう。

俺達は、多分ナジュを除いて、皆顔面蒼白だったろうから。

教師が揃って顔面蒼白になっていたら、誰でも心配する。

「う、うん…。だ、大丈夫だよ」

シルナは生徒を心配させまいと、何とか笑顔を作って答えた。

「すぐ帰ってくるだろう、いや、すぐ連れ戻すから。こっちは心配しないで。さぁ、授業の準備に戻りなさい」

「は、はい…」

「ほ、本当に大丈夫ですか…?」

「うん、大丈夫大丈夫。あとは私達に任せて。わざわざ伝えに来てくれてありがとうねー」

ちょっと、シルナの声が上ずっていた。

が、二人のルームメイト達には、それで納得してもらうしかなかった。

二人は、ちょっと首を傾げながら、学院長室を出ていった。
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